万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉集の世界へ飛び込もう(その2972)―書籍掲載歌を中軸に(Ⅲ)―家持vs紀女郎(1)

【ああいえば、こういう】

 「『ああいえば、こういう』という男女間のやり取りは、・・・一つの文芸の伝統であり、歌垣の文化の流れを引き継ぐものである、と考えることもできます。・・・取り上げる歌は次の二首です。・・・

 (相聞 巻四の七七五)(同 同七七六)(歌は省略)

 こちらのカップルも『ああいえば、こういう』という感じですね。」

 

【家持には十五歳年上の恋人がいた?】

 「『万葉集』をひもとくと、家持は合計で十二、三人の女性と恋歌のやり取りを残しています。しかし、双方の歌が残っている女性は意外にも少ないのです。坂上大嬢・笠郎女・巫部麻蘇娘子(かむなぎべのまそをとめ)・日置長枝娘子(へきのながえのをとめ)と・・・紀女郎だけです。そのうち、家持自身が熱心に歌を返しているのは、最愛の嫡妻(ちゃくさい)となる大嬢と、紀女郎だけです。・・・紀女郎は安貴王(あきのおほきみ)の妻であり、安貴王の子である市原王(いちはら)と家持との間には交友関係がありました。・・・恋愛をしていたのか、恋愛ごっこをして恋歌を交わし合って遊んでいたのか、実際に二人がどういう関係にあったかは、類推するほかありません。このことを踏まえて、歌を読んでいきましょう。ときに天平十三(七四一)年。家持は二十四~二十五歳、紀女郎は四十歳前後であったと推定されます。」(「万葉集の心を読む」 上野 誠著 角川ソフィア文庫より)

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(注)紀女郎:「鹿人大夫が女、名を小鹿といふ。安貴王が妻なり」(巻四 六四三~六四五の題詞)

(注の注)鹿人大夫:紀朝臣鹿人。

 

 相聞 巻四の七七五歌・七七六歌をみていこう。

■巻四 七七五歌■

 題詞は、「大伴宿禰家持贈紀女郎歌一首」である。

 

◆鶉鳴 故郷従 念友 何如裳妹尓 相縁毛無寸

       (大伴家持 巻四 七七五)

 

≪訓≫鶉鳴(うづらなく) 故郷従(ふりにしさとゆ) 念友(おもへども) 何如裳妹爾(なにそもいもに) 相縁毛無寸(あふよしもなき)

 

(訳)鶉鳴く ふるさと奈良におりました時から あなたさまのことをお慕いもうしあげておりましたが…… どうして こんなにも お会いする方法がないのでしょうか? ご無沙汰お許しください (「万葉集の心を読む」 上野 誠著 角川ソフィア文庫より)

(注)うずらなく【鶉鳴く】:[枕]ウズラは草深い古びた所で鳴くところから「古(ふ)る」にかかる。(weblio辞書 デジタル大辞泉

(注)にし 分類連語:…てしまった。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

(注)よし【由】名詞:①理由。いわれ。わけ。②口実。言い訳。③手段。方法。手だて。④事情。いきさつ。⑤趣旨。⑥縁。ゆかり。⑦情趣。風情。⑧そぶり。ふり。(学研)ここでは③の意

 

 

 

■巻四 七七六歌■

題詞は、「紀女郎報贈家持歌一首」である。

 

◆事出之者 誰言尓有鹿 小山田之 苗代水乃 中与杼尓四手

        (紀女郎 巻四 七七六)

 

≪訓≫事出之者(こちでしは) 誰言尓有鹿(たがことなるか) 小山田之(おやまだの) 苗代水乃(なはしろみづの) 中与杼尓四手(なかよどにして)

 

(訳)最初に付き合いたいと 言い出したのはいったいどちらの方でしたっけ 山の小さな田んぼの 苗代水のように 今は二人の仲は停滞中 最近ご無沙汰続きですこと(同上)

(注)小山田之 苗代水乃:序。「中よど」を起す。(伊藤脚注)

(注)中よど:流れが中途で止まること。妻問いが絶えることの譬え。(伊藤脚注)

(注の注)よど【淀・澱】名詞:淀(よど)み。川などの流れが滞ること。また、その場所。(学研)

 

 七七五・七七六歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その945)」で、紀女郎の父紀鹿人の歌碑(プレート)(6-990)とともに紹介している。

 ➡ 

tom101010.hatenablog.com

 

 

 

 

一宮市萩原町 萬葉公園万葉歌碑(プレート)(紀鹿人 6-990) 20210216



 

 

 

 

 

 紀女郎の歌は万葉集には十二首が収録されている。これについては、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1114)」で紹介している。

 ➡ 

tom101010.hatenablog.com

 

 

 

 

奈良市春日野町 春日大社神苑萬葉植物園万葉歌碑<プレート>(紀女郎 8-1461) 
20210427撮影



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集の心を読む」 上野 誠著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集 一」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「weblio辞書 デジタル大辞泉