万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉集の世界へ飛び込もう(その2979)―書籍掲載歌を中軸に(Ⅲ)―宴する歌(2)

【家持登場、あるじを祝福する】

 「梅問答を受けて、家持が登場します。

 (巻二十の四四九八)(歌は省略)

 「梅の木が出たのを受けて、家持が歌ったのは『磯松』でした。・・・清麻呂の邸宅の庭には池があったのでしょう。池には岩が配されて、松が植えられていたのです。池は海に、護岸の石積みは磯に見立てられたのでしょう。・・・何よりも松は、長寿の象徴。『庭の松を見て、あの松のように、いつまでもいつまでもご壮健にて……』と賀の言葉を述べたのでした。」(「万葉集の心を読む」 上野 誠著 角川ソフィア文庫より)

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 巻二十の四四九八歌をみていこう。

■巻二十 四四九八歌■

◆波之伎余之 家布能安路自波 伊蘇麻都能 都祢尓伊麻佐祢 伊麻母美流其等

       (大伴家持 巻二十 四四九八)

 

≪書き下し≫はしきよし 今日の主人(あろじ)は 礒松(いそまつ)の 常にいまさね今も見るごと

 

(訳)いとおしい 今日のあるじ様には…… 磯松のごとくに いつまでもご壮健でいてください 今、おすこやかであらせられますように――(「万葉集の心を読む」 上野 誠著 角川ソフィア文庫より)

(注)磯松:今見ている庭園の池の岸辺の松。「松」に「待つ」を懸け、変わらずに待っていてほしい意をこめる。(伊藤脚注)

 

 左注は、「右一首、右中弁(うちうべん)大伴宿禰(すくね)家持」である。

 

 この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1086)」で、天平勝宝九年(757年)七月四日、橘奈良麻呂の変・八月十八日、天平宝字改元、そして天平宝字元年(757年)十一月十八日、藤原仲麻呂の権勢をほしいままにした「いざ子どもたはわざなせそ天地の堅めし国ぞ大和島根は(四四八七歌)」の歌が収録されているが、家持はかつてのような前向きな、明日を夢見る気持ちはなく、親しい仲間を失い、体制の中に捉われ懐古に浸る歌が多くなり、宴会歌が多くなり、やがて万葉集の終焉を迎えるが、その渦中の家持の歌を順を追ってとりあげたなかで、奈良市春日野町 春日大社神苑萬葉植物園万葉歌碑(プレート)(大伴家持 20-4512)とともに紹介している。

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tom101010.hatenablog.com

 

 

 

 

 

奈良市春日野町 春日大社神苑萬葉植物園万葉歌碑(プレート)(大伴家持 20-4512)
 20210427撮影



 

 

 

 

【何を、どう讃えるか、それが問題だ】

 「・・・清麻呂は一座の長老でなおかつあるじであったことを考えると、彼を讃えることは、宴に招かれた者のエチケットであった、・・・ただし、その讃え方が問題です。家持は梅の歌が続いたのを見て、松に話題を振ったのです。おそらく、庭に松があるのを見て、松を歌ったのでしょう。皆が見ているものを歌えば、場が盛り上がります。・・・

 この祝辞に、あるじ清麻呂は、こう答えました。

 (巻二十の四四九九)(歌は省略)

 『おまえさんがそういってくれるなら、天地の神にでも祈って長生きしたいと思うよ』と清麻呂は答えました。清麻呂は元気だったのでしょう。『今日の主人は 礒松の 常にいまさね今も見るごと』(巻二十の四四九八)と、『今日』と『今』とが歌われるのは、清麻呂が、まさに健やかであったのだと思います。」(同上)

 

 巻二十の四四九九歌をみてみよう。

■巻二十 四四九九歌■

◆和我勢故之 可久志伎許散婆 安米都知乃 可未乎許比能美 奈我久等曽於毛布

       (中臣清麻呂 巻二十 四四九九)

 

≪書き下し≫我が背子(せこ)しかくし聞(き)こさば天地(あめつち)の神を祈(こ)ひ禱(の)み長くとぞ思ふ

 

(訳)あなたがこれほどまでにおっしゃって下さるのでしたら、天地の神という神にお祈りしながら、いついつまでも生き長らえたいと思います。(伊藤 博 著 「万葉集 四」 角川ソフィア文庫より)

(注)かく:前歌の内容をさす。(伊藤脚注)

(注の注)かく 【斯く】副詞:このように。こう。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

(注)きこ・す 【聞こす】自動詞:おっしゃる。▽「言ふ」の尊敬語。 ※上代語。(学研)

 

左注は、「右一首主人中臣清麻呂朝臣」<右の一首は主人中臣清麻呂朝臣>である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集の心を読む」 上野 誠著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集 四」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」