【市原王登場、敬慕の念を述べる】
「・・・市原王は、家持と清麻呂の問答を受けて、
(巻二十の四五〇〇)(歌は省略)
と歌いました。『梅の花の香を慕い、遠く離れたところにおりましても、心では常に清麻呂さまのことをお慕い申し上げます』と述べているのです。これは、敬慕の念を申し述べたものです。離れたところに住んではいても、心では近しく思います、という意味です。・・・清麻呂の人柄を讃えて表現したもの。梅の香りのようなあなたの人柄に惚れて、わたしたちはあなたを慕いつづけます、といいたいのでしょう。清麻呂様が長生きなさるというのでしたら、わたしたちはついてゆきますから、といっているのです。」(「万葉集の心を読む」 上野 誠著 角川ソフィア文庫より)
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巻二十の四五〇〇歌をみてみよう。
■巻二十 四五〇〇歌■
◆宇梅能波奈 香乎加具波之美 等保家杼母 己許呂母之努尓 伎美乎之曽於毛布
(市原王 巻二十 四五〇〇)
≪書き下し≫梅の花香(か)をかぐはしみ遠けども心もしのに君をしぞ思ふ
(訳)お庭の梅の花、その漂う香りの高さに、遠く離れてはおりますけれども、心一途(いちず)に御徳をお慕い申しているのです。(「万葉集 四」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)
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左注は、「右一首治部大輔市原王」<右の一首は治部大輔(ぢぶのだいふ)市原王>である。
この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1195)」で、日高郡印南燈印南原 おたき瀧法寺万葉歌碑(市原王 3-412)とともに市原王の歌八首のなかで紹介している。
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20210913撮影
【市原王を困らせようとした家持】
市原王がこのように梅の歌を歌ったことを、チクリと家持が刺しました。彼はこう歌います。
(巻二十の四五〇一)(歌は省略)
『どんな花でも、花というものは移ろうものです。永遠に移ろうことのない松の枝をわたしは結んで、わたしは清麻呂様のご長寿をお祈りしますがね』と家持はうたいました。・・・しかし、こう歌われてしまうと、市原王の寿ぎの言葉が色あせてしまいます。『花はいけません、色あせますから。松でなくてはいけません。こちらは永遠です』というのですから。冒頭の梅問答から、松に話題を変えたのは家持です。ここは、梅でなく松でゆきましょう、というところではないでしょうか。」(同上)
巻二十の四五〇一歌もみていこう。
■巻二十 四五〇一歌■
◆夜知久佐能 波奈波宇都呂布 等伎波奈流 麻都能左要太乎 和礼波牟須婆奈
(大伴家持 巻二十 四五〇一)
≪書き下し≫八千種(やちくさ)の花はうつろふときはなる松のさ枝(えだ)を我れは結ばな
(訳)折々の花はとりどりに美しいけれど、やがて色褪(いろあ)てしまう。われらは、永久(とわ)に変わらぬ、このお庭の松を結んで、主人(あるじ)の弥栄(いやさか)を祈ろう。(伊藤 博 著 「万葉集 四」 角川ソフィア文庫より)
(注)やちくさ【八千草・八千種】名詞:①たくさんの草。②多くの種類。種々。さまざま。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)
(注)うつろふ【映ろふ】自動詞:(光や影などが)映る。 ※「映る」の未然形+反復継続の助動詞「ふ」からなる「映らふ」が変化した語。(学研)
(注)うつろふ【移ろふ】自動詞:①移動する。移り住む。②(色が)あせる。さめる。なくなる。③色づく。紅葉する。④(葉・花などが)散る。⑤心変わりする。心移りする。⑥顔色が変わる。青ざめる。⑦変わってゆく。変わり果てる。衰える。 ※「移る」の未然形+反復継続の助動詞「ふ」からなる「移らふ」が変化した語。(学研)
(注)むすぶ【結ぶ】他動詞①つなぐ。結び合わせる。結ぶ。②(約束などを)結ぶ。関係をつける。約束する。③両手で印(いん)の形を作る。▽「印を結ぶ」の形で用いる。④(物を)作る。構える。編んで作る。組み立てる。⑤(状態・形を)かたちづくる。生じさせる。構成する。 ⇒参考 古くは、草の葉や木の枝を結び合わせて無事や幸福を祈り、男女が相手の衣服の紐(ひも)を結んで誓いを立てることなどが行われた。(学研)
この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1374)」で福井県越前市 万葉の里味真野苑万葉歌碑<プレート>とともに、松に関する歌を紹介する中で取り上げている。
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20211111撮影
(参考文献)
★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)
★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」