●歌は、「君がため山田の沢にゑぐ摘むと雪消の水に裳の裾濡れぬ」である。
●歌をみてみよう。
◆為君 山田之澤 恵具採跡 雪消之水尓 裳裾所沾
(作者未詳 巻十 一八三九)
≪書き下し≫君がため山田の沢(さは)にゑぐ摘(つ)むと雪消(ゆきげ)の水に裳(も)の裾(すそ)濡れぬ
(訳)あの方のために、山田のほとりの沢でえぐを摘もうとして、雪解け水に裳の裾を濡らしてしまった。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)
(注)えぐ:〘名〙 (あくが強い意の「えぐし(蘞)」から出た語) 植物「くろぐわい(黒慈姑)」の異名。一説に「せり(芹)」をさすともいう。えぐな。(コトバンク 精選版 日本国語大辞典)
(注)ほとり【辺】名詞:①辺境。果て。②そば。かたわら。近辺。③関係の近い人。縁故のある人。(学研)
この歌碑の横に「吹田慈姑(すいたくわい)」が植えられているコーナーがある。
その説明案内板に、一般の慈姑は奈良時代に唐から輸入されたもので、吹田慈姑は日本古来のものと書かれている。
歌から脱線するが、慈姑(くわい)について詳しく知りたいと検索してみた。
「野菜情報サイト野菜ナビ」に詳しく書かれているので引用させていただく。慈姑にもいろいろな種類があることを知ったのである。
「国内で流通しているくわいの多くは青くわいです。扁球形で皮が青みがかっていて、おもに埼玉県や広島県で栽培されています。肉質がやわらかくホクホクとした食感が特徴。別名『京くわい』や『新田くわい』ともいわれます。京野菜や加賀野菜としてのくわいも在来の青くわいです。出回り時期は11月下旬から12月下旬頃。」
そして「吹田くわい」についても、「大阪府吹田市近郊で栽培されているくわいで、この地域で誕生した歴史の古いくわいです。塊茎が小さく皮は青〜赤紫色で苦味が少なめ。口当たりのよい緻密な肉質でくわいの中では一番食味がよいとされています。小粒なので『姫くわい』ともいわれ、なにわの伝統野菜の1つに指定されています。」と書かれている。
さらに、「大黒くわい」に関して、「青くわいや吹田くわいはオモダカ科ですが、この大黒くわいはカヤツリグサ科なので別の種類の植物です。皮が黒く果肉は白色。中華料理でよく使われ、シャキシャキした歯触りが魅力。炒め物や揚げ物などに使います。ちなみに、日本に古くから自生していた『黒くわい』もカヤツリグサ科なのでこの大黒くわいとは近縁になります。」と書かれている。
阪急千里線、大阪モノレールに「山田駅」がある。大阪府吹田市山田西四丁目である。歌の「山田」は、「山田のほとり」という表現から一般的な山田であり、地名ではないように思える。また、「雪解けの水」という表現から大阪とはなじまないように思える。
しかし「ゑぐ」「吹田慈姑」等からは吹田市千里南公園に歌碑を設置するのもロマンがあって楽しい感じがするのである。
万葉集のおかげで、慈姑について少し知ることができたのである。
(参考文献)
★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)
★「野菜情報サイト野菜ナビ」