●歌は、「秋さらば移しもせむと我が蒔きし韓藍の花を誰れか摘みけむ(作者未詳 7-1362)」である。

20200702撮影
「例歌は、秋がきたら染料にでもしようと蒔いておいた韓藍(からあい)の花を誰が摘んでしまったのであろうか、の意である。集中、譬喩歌として納められている。譬喩歌は相聞(そうもん)の情を表に表現せず、他のことにかこつけて譬喩的に表現する。従って『韓藍の花』を女性に例え、将来妻にと思っていたのに誰かに先取りされてしまったくやしい思いがこの歌に込められている。『韓藍』は韓の国から渡来した藍(染料になる草の意)で、現在のケイトウのことである。ケイトウは『鶏頭』と書くが、雄鶏のトサカのこと。この花軸が帯化(石化)して鶏のトサカに似ているためにトサカグサ・ケイトウカなどと呼ばれた。・・・色は栽培種では黄・白などもあるが鮮やかな赤が基本である。これを摺り染めの材とした・・・この鮮やかな赤の色が熱烈な恋心を表し、または若い美しい女性を表すものとされた。集中の4首もともに相聞の歌である。(後略)」(「植物で見る万葉の世界」(國學院大學「万葉の花の会」発行)より)
●歌をみていこう。
◆秋去者 影毛将為跡 吾蒔之 韓藍之花乎 誰採家牟
(作者未詳 巻七 一三六二)
≪書き下し≫秋さらば移(うつ)しもせむと我(わ)が蒔(ま)きし韓藍(からあゐ)の花を誰(た)れか摘(つ)みけむ
(訳)秋になったら移し染めにでもしようと、私が蒔いておいたけいとうの花なのに、その花をいったい、どこの誰が摘み取ってしまったのだろう。(「万葉集 二」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)
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(注)からあゐ【韓藍】〘名〙:① (外来の藍の意。その紅色の花汁をうつし染めに用いたところから) 植物「けいとう(鶏頭)」の古名。《季・秋》② 美しい藍色。 [補注](①について) 異説として、鴨頭草(つきくさ)(=露草(つゆくさ))とする説、呉藍(くれない)(=紅花(べにばな))とする説などがあるが、上代の用例による、種子をまいて、秋に紅色の花が咲き、うつし染めにするという条件には、露草、紅花ともに合致しない。(コトバンク 精選版 日本国語大辞典)
(注)移しもせむ:移し染めにしようと。或る男にめあわせようとすることの譬え。(伊藤脚注)
(注の注)うつす 【移す】他動詞:①動かす。移動させる。置き変える。②流罪にする。③(心を)動かす。心変わりする。気をとられる。④しみ込ませる。⑤(時を)過ごす。経過させる。⑥物の怪(け)をほかにのりうつらせる。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)ここでは➃の意
(注)誰(た)れか摘(つ)みけむ:あらぬ男に娘を捕られた親の気持ち。(伊藤脚注)
●当該歌の歌碑をみてみよう。
■滋賀県東近江市糠塚町 万葉の森船岡山万葉歌碑■

20191023撮影
■奈良市春日野町 春日大社神苑萬葉植物園万葉歌碑(プレート)■

■兵庫県加古郡稲美町 稲美中央公園万葉の森万葉歌碑■

20200702撮影
■松山市御幸町 護国神社・万葉苑万葉歌碑(プレート)■

20220922撮影
■高知県大豊町粟生 土佐豊永万葉植物園万葉歌碑■

20221130撮影
■国分寺市西元町 国分寺万葉庭園万葉歌碑(プレート)■

20251122撮影
(参考文献)
★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)
★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫)
★「植物で見る万葉の世界」 (國學院大學「万葉の花の会」発行)
★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」














































