万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉集の世界に飛び込もう―万葉歌碑を訪ねて(その2348)―

■うけら■

「万葉植物園 植物ガイド105」(袖ケ浦市郷土博物館発行)より
引用させていただきました。

●歌は、「恋しければ袖も振らむを武蔵野のうけらが花の色に出なゆめ」である。

千葉県袖ケ浦市下新田 袖ヶ浦公園万葉植物園万葉歌碑(プレート)(作者未詳) 
20230926撮影

●歌碑(プレート)は、千葉県袖ケ浦市下新田 袖ヶ浦公園万葉植物園にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆古非思家波 素弖毛布良武乎 牟射志野乃 宇家良我波奈乃 伊呂尓豆奈由米

       (作者未詳 巻十四 三三七六)

 

≪書き下し≫恋(こひ)しけば袖(そで)も振らむを武蔵野(むざしの)のうけらが花の色に出(づ)なゆめ

 

(訳)恋しかったら私は袖でも振りましょうものを。しかし、あなたは、武蔵野のおけらの花の色のように、おもてに出す、そんなことをしてはいけませんよ。けっして。(伊藤 博 著「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)

(注)うけら【朮】名詞:草花の名。おけら。山野に自生し、秋に白や薄紅の花をつける。根は薬用。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

(注)ゆめ【努・勤】副詞:①〔下に禁止・命令表現を伴って〕決して。必ず。②〔下に打消の語を伴って〕まったく。少しも。(学研)

 

 

 或る本の歌もみてみよう。

 

◆或本歌曰 

伊可尓思弖 古非波可伊毛尓 武蔵野乃 宇家良我波奈乃 伊呂尓弖受安良牟

        (作者未詳 巻十四 <三三九四>)

            <  >は、「新編 国歌大観」の新番号

 

≪書き下し≫或る本の歌に曰(い)はく

いかにして恋ひばか妹(いも)に武蔵野のうけらが花に出(で)ずあらむ

 

(訳)どんなふうに恋い慕ったなら、あの子に対して、武蔵野のおけらの花の色のように、おもてに出すようなことをしないですますことができるのであろうか。(同上)

 

 

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感想(1件)

 万葉集では、「うけら」が詠まれているのは、上記二首以外にもう二首ある。これらについては、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その340)」で紹介している。

 ➡ 

tom101010.hatenablog.com

 

 

 

 「うけら(オケラ)」について、「植物で見る万葉の世界」(國學院大學「万葉の花の会」発行)に「目立たない花だが、忍ぶ恋をこの花に託した万葉人の自然を見る目の鋭さに驚く。・・・京都の正月を迎える八坂神社の歳旦祭を祝う有名な『おけら祭』には、このオケラを焚きその煙のたなびく方向で、その年の吉凶を占う。その後に参拝者にその浄火を分かち、人々は先を争って吉兆縄(きっちょうなわ)のその火を移し、火を消さないようにくるくる回しながら家に持ち帰り、雑煮を炊いて元旦を祝う。」と書かれている。

 

「をけら詣り」について、八坂神社HPに次のように書かれている。

「京都の年末の風物詩として12月31日の午後7時半頃から元旦の早朝5時頃まで執り行われるのが『をけら詣り』になります。

午後7時から本殿にて一年を締めくくる除夜祭が執り行われ、祭典後には境内に設けられた灯籠に順次、神職により浄火が点火されます。その際に白朮(をけら)の欠片と氏子崇敬者が一年間の無病息災を祈願した『をけら木』が一緒に炊き上げられます。

白朮とはキク科の植物であり、その根っこを乾燥させたものを燃やすと非常に強い匂いを発することから邪気を祓うとされ、江戸時代までは年末の風物詩として一般家庭でも執り行われていました。

参拝者はこの『をけら火』を火縄に移して消えないように持ち帰り、かつては新年の雑煮を炊く釜の火種や神棚の灯明にして、一年間の無病息災を祈願しました。現在では『をけら火』を消した火縄を火伏せのお守りとして台所にお飾りいただけます。」



 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 三」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「植物で見る万葉の世界」 (國學院大學「万葉の花の会」発行)

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「万葉植物園 植物ガイド105」 (袖ケ浦市郷土博物館発行)

★「八坂神社HP」