■おみなえし■
●歌は、「手に取れば袖さへにほふをみなへしこの白露に散らまく惜しも」である。
●歌碑(プレート)は、千葉県袖ケ浦市下新田 袖ヶ浦公園万葉植物園にある。
●歌をみていこう。
◆手取者 袖并丹覆 美人部師 此白露尓 散巻惜
(作者未詳 巻十 二一一五)
≪書き下し≫手に取れば袖(そで)さへにほふをみなへしこの白露(しらつゆ)に散らまく惜(を)しも
(訳)手に取れば袖までも染まる色美しいおみなえしなのに、この白露のために散るのが今から惜しまれてならない。(「万葉集 二」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)
(注)にほふ【匂ふ】自動詞:①美しく咲いている。美しく映える。②美しく染まる。(草木などの色に)染まる。③快く香る。香が漂う。④美しさがあふれている。美しさが輝いている。⑤恩を受ける。おかげをこうむる。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典) ここでは②の意
(注)白露:漢語「白露」の翻読語。普通秋の露にいう。(伊藤脚注)
新版 万葉集 二 現代語訳付き (角川ソフィア文庫) [ 伊藤 博 ] 価格:1100円 |
この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1178)」で、万葉集に詠まれた、おみなえし十四首とともに紹介している。
➡
「をみなへし」の万葉仮名表記をみてみよう。
「娘子部四」 六七五歌
「姫押」 一三四六歌
「娘部思」 一五三〇歌、一九〇五歌
「娘部志」 一五三四歌、一五三八歌
「佳人部為」 二一〇七歌
「美人部師」 二一一五歌
「娘部四」 二二七九歌
「乎美奈敝之」 三九四三歌、三九四四歌、三九五一歌
「乎美奈弊之」 四二九七歌、四三一六歌
女郎花(オミナエシ)の語源・由来については、「語源由来辞典」に「オミナエシの『オミナ(女郎)』は、美しい女性の意味で、『万葉集』では『女郎』のほか、オミナに『佳人』『美人』『娘子』『娘』『姫』などの字が使われている。
オミナエシの『エシ』には、動詞『ヘス(圧す)』の連用形とする説と、推量の『ベシ』とする説がある。」と書かれている。
(注)をみな【女】名詞:若く美しい女性。女。(学研)
一字表記でも「美」を使っているところは書き手の遊び心が伺える。
■女郎花(オミナエシ)と男郎花(オトコエシ)■
横浜市こども植物園HPに次のような記載があったので紹介させていただきます。
「こども植物園の薬草園で女郎花(オミナエシ)と男郎花(オトコエシ)が見られます。
女郎花の歴史的仮名遣いは『をみなへし』。『をみな』は女性のことで、古くは美人、佳人の意味です。『へし』は『圧(へ)す』の連用形なので、美人を圧倒するほど美しいという意味で、この名がついたとされています。また、同科で白い花を咲かせる男郎花(オトコエシ)は、花の色が白く地味で,茎や葉は女郎花より大きく男性的な感じがすることから命名されたと言われています。薬草園では、隣り合わせで咲いていますので、是非御覧になってください。」
(参考文献)
★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)
★「植物で見る万葉の世界」(國學院大學「万葉の花の会」発行)
★「万葉植物園 植物ガイド105」(袖ケ浦市郷土博物館発行)
★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」
★「語源由来辞典」
★「横浜市こども植物園HP」