万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉集の世界に飛び込もう―万葉歌碑を訪ねて(その2377)―

■やまゆり■

「万葉植物園 植物ガイド105」(袖ケ浦市郷土博物館発行)より引用させていただきました。

●歌は、「道の辺の草深百合の花笑みに笑みしがからに妻と言ふべしや」である。

千葉県袖ケ浦市下新田 袖ヶ浦公園万葉植物園万葉歌碑(プレート)(作者未詳) 20230926撮影

●歌碑(プレート)は、千葉県袖ケ浦市下新田 袖ヶ浦公園万葉植物園にある。                

●歌をみていこう。

 

◆道邊之 草深由利乃 花咲尓 咲之柄二 妻常可云也

       (作者未詳 巻七 一二五七)

 

≪書き下し≫道の辺(へ)の草深百合(くさふかゆり)の花(はな)笑(ゑ)みに笑みしがからに妻と言ふべしや

 

(訳)道端の草むらに咲く百合、その蕾(つぼみ)がほころびるように、私がちらっとほほ笑んだからといって、それだけでもうあなたの妻と決まったようにおっしゃってよいものでしょうか。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)草深百合:草むら深く咲く百合。上三句は「笑みし」の譬喩(伊藤脚注)

(注の注)くさぶかゆり【草深百合】:草深い所に生えている百合。 (weblio辞書 三省堂 大辞林 第三版)

(注の注)ゑむ【笑む】自動詞:①ほほえむ。にっこりとする。微笑する。②(花が)咲く。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

(注)笑みしがからに:私がちょっと微笑んだだけで。(伊藤脚注)

(注の注)からに 接続助詞《接続》活用語の連体形に付く。:①〔原因・理由〕…ために。ばかりに。②〔即時〕…と同時に。…とすぐに。③〔逆接の仮定条件〕…だからといって。たとえ…だとしても。…たところで。▽多く「…むからに」の形で。 ⇒参考:格助詞「から」に格助詞「に」が付いて一語化したもの。上代には「のからに」「がからに」の形が見られるが、これらは名詞「故(から)」+格助詞「に」と考える。(学研)

 

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 この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その715)」で紹介している。

 ➡ 

tom101010.hatenablog.com

 

 

 

 この歌を読んだとき。この男女間の距離感が計り知れなかった。

 或る程度知っているないしは、やや親しい間柄と考えると、「私がちらっとほほ笑んだからといって」妻と言ふべしや「勘違いしないでよ!」といった歌になってしまう。味もそっけもない。

といって、微妙な間柄で、「妻と言ふべしや」と軽くあしらい程度に言うのであれば「私がちらっとほほ笑んだからといって」では、女性側のうぬぼれ的な歌になってしまう。

 万葉集の歌の原点であるとされる歌謡的要素が強いとみればこの歌のおもしろさが感じられるのである。

 また、「笑みしがからに」の主語が、男か女かで歌の雰囲気も異なってくる。

 樋口清之氏は、その著「万葉の女人たち」(講談社学術文庫)のなかで、「・・・万葉の人達は男女を問わず身辺に在ったものを、または映じ感じもしたものを、感ずるままに歌にも歌ったのです。・・・万葉人にとって路傍の人皆歌の材料・・・その花が私に向かって咲きえんでいるように、あの方が私に微笑みかけて来ましたが・・・」と解釈されている。しして「路傍の草深きに咲く百合の花をかく懐かしみ親しんだ心情、そこには世の中の在りとしあるもの、皆生命を得て存分にその生を楽しんでいる姿が伺われるように思います・・・」と書かれている。

 

 

 ゆりを詠んだ歌は、集中11首が収録されている。これについては、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1072)」で紹介している。

 ➡ 

tom101010.hatenablog.com

 

 

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉の女人たち」 樋口清之 著 (講談社学術文庫

★「万葉植物園 植物ガイド105」(袖ケ浦市郷土博物館発行)

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「weblio辞書 三省堂 大辞林 第三版」