■こなら■
●歌は、「山科の石田の小野のははそ原見つつか君が山道越ゆらむ」である。
●歌碑(プレート)は、千葉県袖ケ浦市下新田 袖ヶ浦公園万葉植物園にある。
●歌をみていこう。
◆山品之 石田乃小野之 母蘇原 見乍哉公之 山道越良武
(藤原宇合 巻九 一七三〇)
≪書き下し≫山科(やましな)の石田(いはた)の小野(をの)のははそ原見つつか君が山道(やまぢ)越ゆらむ
(訳)山科の石田の小野のははその原、あの木立を見ながら、あの方は今頃独り山道を越えておられるのであろうか。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)
(注)ははそ【柞】名詞:なら・くぬぎなど、ぶな科の樹木の総称。紅葉が美しい。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)
一七二九から一七三一歌の題詞は、「宇合卿歌三首」<宇合卿(うまかひのまへつきみ)が歌三首>である。
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この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その553)」で集中の宇合の歌六首とともに紹介している。
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「ははそ」については、コトバンク 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)に次のように書かれている。
「コナラの古名とも、ナラ・クヌギ類の総称ともいう。『万葉集』に『山科(やましな)の石田(いはた)の小野のははそ原見つつか君が山道(やまぢ)越ゆらむ』(巻9・藤原宇合(うまかい))と詠まれ、のちにこの『石田(いしだ)のははそ原』は歌枕(うたまくら)となり、また『ははそ葉の』は『母』の枕詞(まくらことば)となった。『古今集』では、とくに『佐保(さほ)山』の景物として類型化し、『秋霧は今朝はな立ちそ佐保山のははその紅葉(もみぢ)よそにても見む』(秋下)などと詠まれた。『源氏物語』『少女(おとめ)』には、六条院の冬の町の御殿に植えられたさまが記され、『更級(さらしな)日記』には、『ははその森』という紅葉の名所があげられている。『今昔物語集』巻31に、近江(おうみ)国栗太(くるもと)郡に大きな柞(カシとも読む)の木があって、朝方には丹波(たんば)、夕方には伊勢(いせ)まで日陰になったので、農作物のじゃまになるといって、勅命で切られてしまったとある。紅葉の美しさから、秋の季題。」
「ははそ」を詠った歌は、万葉集では、藤原宇合の他に大伴家持の歌二首(四一六四歌ならびに四四〇八歌)がある。
四一六四歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1767)」他で紹介している。
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四四〇八歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その548)」で紹介している。
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(参考文献)
★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)
★「万葉植物園 植物ガイド105」(袖ケ浦市郷土博物館発行)
★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」