万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉集の世界に飛び込もう―万葉歌碑を訪ねて(その2420)―

■にわうめ■

「万葉植物園 植物ガイド105」(袖ケ浦市郷土博物館発行)より引用させていただきました。

●歌は、「夏まけて咲きたるはねずひさかたの雨うち降らばうつろひなむか」である。

千葉県袖ケ浦市下新田 袖ヶ浦公園万葉植物園万葉歌碑(プレート)(大伴家持) 20230926撮影

●歌碑(プレート)は、千葉県袖ケ浦市下新田 袖ヶ浦公園万葉植物園にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆夏儲而 開有波祢受 久方乃 雨打零者 将移香

       (大伴家持 巻八  一四八五)

 

≪書き下し≫夏まけて咲きたるはねずひさかたの雨うち降らばうつろひなむか

 

(訳)夏を待ち受けてやっと咲いたはねず、そのはねずの花は、雨でも降ったら色が褪(あ)せてしまうのではなかろうか。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)まく【設く】他動詞:①前もって用意する。準備する。②前もって考えておく。③時期を待ち受ける。(その季節や時が)至る。 ※上代語。中古以後は「まうく」。ここでは、③の意(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

(注)ひさかたの【久方の】分類枕詞:天空に関係のある「天(あま)・(あめ)」「雨」「空」「月」「日」「昼」「雲」「光」などに、また、「都」にかかる。語義・かかる理由未詳。(学研)

(注)うつろふ【移ろふ】自動詞:①移動する。移り住む。②(色が)あせる。さめる。なくなる。③色づく。紅葉する。④(葉・花などが)散る。⑤心変わりする。心移りする。⑥顔色が変わる。青ざめる。⑦変わってゆく。変わり果てる。衰える。 ※「移る」の未然形+反復継続の助動詞「ふ」からなる「移らふ」が変化した語。(学研)ここでは②の意

 

 この歌に関して、「植物で見る万葉の世界」(國學院大學「万葉の花の会」発行)には、「・・・『移ろひ』には、色が褪せると散る意がある。多くは『褪せる』意に解しているが、この歌では『散る』意に解したい。雨が降ったら可憐な花が散ってしまうであろうかと、花をいたわり、いつくしむ家持の心情が感じられる。素直なやさしい歌と思う。・・・」と書かれている。

 「夏まけて」とあり長い時間経過があり、雨という物理的な力が短時間の間にはねずに働き、「散る」という短時間勝負的な意味合いの方が、はねずの花を思いやる気持ちは強く出るように思う。雨で花の色が褪せて行く、となるとこちらも時間的には長くなり、なにか間延びした感じがする。

 『散る』意の解釈がこの歌にはふさわしいように思える。

 

 この歌については、「はねず」を詠んだ歌は万葉集では四首収録されているが、それらと共に拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1168)」で紹介している。また「はねず祭り」についても言及している。

 

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 一四八五歌は、「はねず」であり、花そのものについて詠っている。他の三首は、「はねず色の」と枕詞として詠まれている。

(注)はねずいろの【はねず色の】分類枕詞:はねず(=植物の名)で染めた色がさめやすいところから「移ろひやすし」にかかる。(学研)

 

 

京都府HP 文化政策室の文化財施策コンテンツ「はねず踊り保存会 (京都市山科区) 風流笠の新調」より引用させていただきました。

 

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「植物で見る万葉の世界」(國學院大學「万葉の花の会」発行)

★「万葉植物園 植物ガイド105」(袖ケ浦市郷土博物館発行)

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」」

★「京都府HP」