万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉集の世界に飛び込もう―万葉歌碑を訪ねて(その2375)―

■やなぎたで■

「万葉植物園 植物ガイド105」(袖ケ浦市郷土博物館発行)より引用させていただきました。

●歌は、「我がやどの穂蓼古幹摘み生し実になるまでに君をし待たむ」である。

千葉県袖ケ浦市下新田 袖ヶ浦公園万葉植物園万葉歌碑(プレート) 20230926撮影

●歌碑(プレート)は、千葉県袖ケ浦市下新田 袖ヶ浦公園万葉植物園にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆吾屋戸之 穂蓼古幹 棌生之 實成左右二 君乎志将待

       (作者未詳 巻十一 二七五九)

 

≪書き下し≫我(わ)がやどの穂蓼(ほたで)古幹(ふるから)摘(つ)み生(おほ)し実(み)になるまでに君をし待たむ

 

(訳)我が家の庭の穂蓼の古い茎、その実を摘んで蒔(ま)いて育て、やがてまた実を結ぶようになるまでも、私はずっとあなたを待ち続けています。(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)

(注)ほたで【穂蓼】:蓼の穂が出たもの。蓼の花穂(かすい)。蓼の花。(weblio辞書 三省堂大辞林第三版)

(注)ふるから【古幹】名詞:古い茎。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

(注)実になるまで:結婚の成就の意をも込める。(伊藤脚注)

 

 「君をし待たむ」と詠っているので、女性の歌と思われる。相手の男がたくましく成長するのを待つというのではなく、蓼の古い茎から実を摘んで育て、実を結ぶまでじっと待ち続けるというつつましやかな、ある意味何といういじらしい女性であろうか。             

 

 「たで」について、「植物で見る万葉の世界」(國學院大學「万葉の花の会」発行)には、「万葉の時代にいずれの植物を『たで』と呼んでいたのか判然としない・・・『たで』を歌う歌は集中3首あるが、<二七五九歌>の他の2首は地名・氏族名の『穂積』を導く枕詞だ。・・・花は穂になって、『積』とあるからにはある程度長さのある穂になって咲くらしいことは判るが、種の特定にまでは及ばない。・・・<二七五九歌>に限ってはヤナギタデかイヌダテあたりを比定するのが妥当だろう。・・・いずれにしろ草丈の低いつつましい草だ。・・・」と書かれている。

 

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感想(1件)

 「蓼」三首については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その330)」で紹介している。

 ➡ 

tom101010.hatenablog.com

 

 

 

 「食の万葉集」(廣野 卓著 中公新書)には、「『蓼食う虫も好き好ずき』といわれるように、タデには独特の辛味がある。食用のタデは、ヤナギタデの変種のムラサキタデやアイタデなどである。・・・現代は、タデの若芽を刺身にそえたり・・・香辛料になっているが、<二七五九歌>では秋になって実をつんでいる。実は香辛料になり根は漢方薬として利用される。『延喜大膳式(えんぎだいぜんしき)』によると、タデを四月から九月まで採集すると定めて、その計量単位を『把』とするので、実だけでなく葉も利用していたようである。・・・<二七五九歌> のように、万葉時代にも庭にさまざまな香草の種を蒔いていたらしい。種が落ちると自然に増えていく。従って、去年につんだタデの実を蒔いて、それにまた実がなるまで、という歌も実体験として生まれるのである。」と書かれている。

 

(注)たで【蓼】:タデ科イヌタデ属の植物の総称。イヌタデ・ハナタデ・オオケタデ・サクラタデなど。また特に、葉を和風香辛料とするヤナギタデなどをさす。(weblio辞書 デジタル大辞泉

weblio辞書 デジタル大辞泉」より引用させていただきました。

 

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 三」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「植物で見る万葉の世界」(國學院大學「万葉の花の会」発行)に

★「万葉植物園 植物ガイド105」(袖ケ浦市郷土博物館発行)

★「食の万葉集」 廣野 卓著 (中公新書

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「weblio辞書 デジタル大辞泉