万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉集の世界に飛び込もう―万葉歌碑を訪ねて(その2356)―

■じゃのひげ■

「万葉植物園 植物ガイド105」(袖ケ浦市郷土博物館発行)より引用させていただきました。

●歌は、「山菅の乱れ恋のみせしめつつ逢はぬ妹かも年は経につつ」である。

千葉県袖ケ浦市下新田 袖ヶ浦公園万葉植物園万葉歌碑(プレート)(作者未詳) 20230926撮影

●歌碑は、千葉県袖ケ浦市下新田 袖ヶ浦公園万葉植物園にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆山菅 乱戀耳 令為乍 不相妹鴨 年經乍

     (柿本人麻呂歌集 巻十一 二四七四)

 

≪書き下し≫山菅(やますげ)の乱(みだ)れ恋(こひ)のみせしめつつ逢はぬ妹(いも)かも年は経(へ)につつ

 

(訳)入り組んだ山菅の根のように千々に乱れる思いばかり味わわせて、いっこうに逢(あ)ってくれないあの子だ。年はいたずらに過ぎて行くばかりで。(「万葉集 三」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)

(注)やますげの【山菅の】分類枕詞:山菅の葉の状態から「乱る」「背向(そがひ)」に、山菅の実の意から「実」に、同音から「止(や)まず」にかかる。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

(注)しむ 助動詞:《接続》活用語の未然形に付く。①〔使役〕…せる。…させる。②〔尊敬〕お…になる。…なさる。…あそばす。▽尊敬を表す語とともに用いて、より高い尊敬の意を表す。多く「しめ給(たま)ふ」の形で用いる。③〔謙譲〕…申し上げる。…させていただく。▽謙譲語「奉る」「啓す」などの下に付いて謙譲の意を強める。 ⇒語法:使役の「しむ」 尊敬語・謙譲語を伴わないで単独で用いられる「しむ」は、①の使役の意味で、上代にはほとんどこの意味で用いられた。 ⇒注意:「しめ給ふ」には二とおりあり、「…に」に当たる使役の対象の人物が文脈上存在する場合は使役、そうでない場合は最高敬語(二重敬語)と見てよい。 ⇒語の歴史:中古の使役表現では、和文体で「す」「さす」が用いられ、漢文訓読調の文章では「しむ」が用いられた。使役の「しむ」は中世以降は和漢混交文に用いられている。③は、中古末期以後、主として男性の会話文で用いられた。(学研)

 

 

 

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感想(1件)

 この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1159)」で、「山菅」十三首の一首として紹介している。

 ➡ 

tom101010.hatenablog.com

 

 

 

 「やますげ」については、「植物で見る万葉の世界」(國學院大學「万葉の花の会」発行)に、「『やますげ』は集中13首の歌に詠まれ、その音から『止まず』という言葉を導いたり、根に主眼をおいて、ねもころ(懇ろ)を導く枕詞として使われている。いずれの歌もその控えめな生態をあらわすかのように、植物そのものが主役にはなっていない。『やますげ』が何をさすのかは諸説が分かれているが、ジャノヒゲかヤブラン、もしくはスゲではないかといわれている。水辺や野で詠まれたものはスゲ、山辺となるとヤブランやジャノヒゲが有力。単に『菅』として詠まれている場合や、根と共に詠まれることも多く、いずれも止むことのない一途な恋心を表現した歌に多く登場する。」と書かれている。

 

 

 

10月22日、第7回目の新型コロナウィルスワクチン予防接種を受けてきました。手際よい係の方の誘導、スムーズに問題もなく接種完了。

 副反応が出ないことを祈るのみである。

 

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 三」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「植物で見る万葉の世界」(國學院大學「万葉の花の会」発行)

★「万葉植物園 植物ガイド105」(袖ケ浦市郷土博物館発行)

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」