■あかめがしわ■
●歌は、「ぬばたまの夜の更けゆけば久木生ふる清き川原に千鳥しば鳴く」である。
●歌碑(プレート)は、千葉県袖ケ浦市下新田 袖ヶ浦公園万葉植物園にある。
●歌をみていこう。
◆烏玉之 夜乃深去者 久木生留 清河原尓 知鳥數鳴
(山部赤人 巻六 九二五)
≪書き下し≫ぬばたまの夜(よ)の更けゆけば久木(ひさぎ)生(お)ふる清き川原(かはら)に千鳥(ちどり)しば鳴く
(訳)ぬばたまの夜が更けていくにつれて、久木の生い茂る清らかなこの川原で、千鳥がちち、ちちと鳴き立てている。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)
(注)ぬばたま【射干玉・野干玉】名詞:ひおうぎ(=草の名)の実。黒く丸い形。「うばたま」「むばたま」とも。(学研)
(注)ひさぎ【楸・久木】名詞:木の名。あかめがしわ。一説に、きささげ。(学研)
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この歌については、「ぬばたま」の例歌として九二五歌が挙げられており歌としては重複している。拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その2366)」で紹介している。
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「ひさぎ」について、「植物で見る万葉の世界」(國學院大學「万葉の花の会」発行)に、「現代名はアカメガシワ・・・名の通り新芽が赤い・・・昔は染料としても使われたらしい。カシワという名がついているが、所謂『柏』とは異なる種類の樹木・・・ただ、『柏』と同じように食物を載せるためにも用いられたことにより名付けられたようである。集中、『ひさぎ』が詠まれている歌が4首ある・・・」と書かれている。
他の3首をみてみよう。
■一八六三歌■
◆去年咲之 久木今開 徒 土哉将堕 見人名四二
(作者未詳 巻十 一八六三)
≪書き下し≫去年(こぞ)咲きし久木(ひさぎ)今咲くいたづらに地(つち)にか落ちむ見る人なしに
(訳)去年咲いた久木が、今また咲いている。しかし、やがてむなしく地面に散り落ちてしまうのではなかろうか。見る人もいないままに。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)
■二七五三歌■
◆浪間従 所見小嶋 濱久木 久成奴 君尓不相四手
(作者未詳 巻十一 二七五三)
≪書き下し≫波の間(ま)ゆ見ゆる小島(こしま)の浜久木(はまひさぎ)久しくなりぬ君に逢はずして
(訳)波の間からはるかに見える小島の浜の久木、その名のようにずいぶん久しくなってしまった。あの方にお逢いしないままに。(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)
(注)上三句は序。「久しく」を起す。(伊藤脚注)
■三一二七歌■
◆度會 大川邊 若歴木 吾久在者 妹戀鴨
(柿本人麻呂歌集 巻十二 三一二七)
≪書き下し≫度会(わたらひ)の大川(おほかわ)の辺(へ)の若(わか)久木(ひさぎ)我(わ)が久(ひさ)ならば妹(いも)恋ひむかも
(訳)度会の大川の川べりに立つ若い久木、その名のように、我が旅が久しく続いたならば、家に待つあの子はきっと恋い焦がれて苦しむことだろう。(同上)
(注)度会:伊勢の度会。
(注)上三句は序。類音で「我が久ならば」を起こす。(伊藤脚注)
(注)ひさぎ【楸・久木】名詞:木の名。あかめがしわ。一説に、きささげ。(学研)
この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その882)」で紹介している。
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(参考文献)
★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)
★「植物で見る万葉の世界」(國學院大學「万葉の花の会」発行)
★「万葉植物園 植物ガイド105」(袖ケ浦市郷土博物館発行)
★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」