■ほおのき■
●歌は、「我が背子が捧げて持てるほほがしはあたかも似るか青き蓋」である。
●歌碑は、千葉県袖ケ浦市下新田 袖ヶ浦公園万葉植物園にある。
●歌をみていこう。
四二〇四、四二〇五歌の題詞は、「見攀折保寳葉歌二首」<攀(よ)ぢ折(を)れる保宝葉(ほほがしは)を見る歌二首>である。
(注)保宝葉:ほうの木。広葉の集まった形は蓋(きぬがさ)に似る。饌具にも用いられる。(伊藤脚注)
◆吾勢故我 捧而持流 保寶我之婆 安多可毛似加 青盖
(講師僧恵行 巻十九 四二〇四)
≪書き下し≫我が背子(せこ)が捧(ささ)げて持てるほほがしはあたかも似るか青き蓋(きぬがさ)
(訳)あなたさまが、捧げて持っておいでのほおがしわ、このほおがしわは、まことにもってそっくりですね、青い蓋(きぬがさ)に。(伊藤 博 著 「万葉集 四」 角川ソフィア文庫より)
(注)我が背子:ここは家持をさす。(伊藤脚注)
(注)あたかも似るか:漢文訓読的表現。万葉集ではこの一例のみ。(伊藤脚注)
(注)きぬがさ【衣笠・蓋】名詞:①絹で張った長い柄(え)の傘。貴人が外出の際、従者が背後からさしかざした。②仏像などの頭上につるす絹張りの傘。天蓋(てんがい)。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)ここでは①の意
左注は、「講師僧恵行」<講師(かうじ)僧恵行(ゑぎやう)>である。
(注)こうじ【講師】〘名〙:① 上代・中古、諸国の国分寺におかれた上座の僧官。古く行なわれた国師を改めたもので、僧尼をつかさどり、また経論を講説した。中央で任命、派遣し、任期は六年。② 維摩会(ゆいまえ)・最勝会等の法会で、講経の任に当たる高僧。(コトバンク 精選版 日本国語大辞典)
「ほほがしわ」は集中二首が収録されている。
もう一首は、四二〇四歌に和えた家持の歌である。
四二〇三、四二〇四歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その486)」で紹介している。
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「蓋(きぬがさ)」も集中二首で詠まれている。もう一首をみてみよう。
◆久堅乃 天歸月乎 網尓刺 我大王者 盖尓為有
(柿本人麻呂 巻二 二四〇)
≪書き下し≫ひさかたの天行く月を網(あみ)に刺し我(わ)が大君は盍(きぬがさ)にせり
(訳)天空高く渡る月、この月を網を張って捕えて、われらの大君は、今しも盍(きぬがさ)にしていらっしゃる。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)
(注)天行く月網に刺し:月を背に夕狩りに出で立つ皇子の姿をこう言った。(伊藤脚注)
(注)網に刺し:網を張って捕えて。(伊藤脚注)
(注)盍(きぬがさ):貴人のうしろからさしかける織物製の傘。(伊藤脚注)
この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その111改)」で長歌(二三九歌)、反歌(二四〇歌)ならびに或る本の反歌(二四一歌)を紹介している。
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この二四〇歌の歌碑(談山神社東大門)については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その113改)」で紹介している。
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(参考文献)
★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)
★「万葉植物園 植物ガイド105」(袖ケ浦市郷土博物館発行)
★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」