万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉集の世界に飛び込もう―万葉歌碑を訪ねて(その2358)―

■すみれ■

「万葉植物園 植物ガイド105」(袖ケ浦市郷土博物館発行)より引用させていただきました。

●歌は、「春の野にすみれ摘みにと来しわれぞ 野をなつかしみ一夜寝にける」である。

千葉県袖ケ浦市下新田 袖ヶ浦公園万葉植物園万葉歌碑(プレート)(山部赤人) 20230926撮影

●歌碑(プレート)は、千葉県袖ケ浦市下新田 袖ヶ浦公園万葉植物園にある。

 

●歌をみていこう。

 

題詞は、「山部宿祢赤人歌四首」<山部宿禰赤人が歌四首>である。

(注)歌四首:春の野遊びの宴歌。一組。初め二首は春への賞讃で男性の立場、後二首は春への嘆息で女性の立場。(伊藤脚注)

 

◆春野尓 須美礼採尓等 來師吾曽 野乎奈都可之美 一夜宿二来

      (山部赤人 巻八 一四二四)

 

≪書き下し≫春の野にすみれ摘(つ)みにと来(こ)しわれぞ野をなつかしみ一夜寝(ね)にける

 

(訳)春の野に、すみれを摘もうとやってきた私は、その野の美しさに心引かれて、つい一夜を明かしてしまった。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)野をなつかしみ:野原の美しさに心引かれて。(伊藤脚注)

(注の注)なつかし【懐かし】形容詞:①心が引かれる。親しみが持てる。好ましい。なじみやすい。②思い出に心引かれる。昔が思い出されて慕わしい。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

 

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 この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その906)」で紹介している。

 ➡ 

tom101010.hatenablog.com

 

 

 

 拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その417)」では、明治十二年に立てられた歌碑とともに四首を紹介しているが、ここでも他の三首をみてみよう。

 

◆足比奇乃 山櫻花 日並而 如是開有者 甚戀目夜裳 

       (山部赤人 巻八 一四二五)

 

≪書き下し≫あしひきの山桜花(やまさくらばな)日(ひ)並(なら)べてかく咲きたらばいたく恋ひめやも

 

(訳)山桜の花、この花が、幾日もずっとこのように咲いているのなら、こうもひどく心引かれることなどあろうか。(同上)

(注)山桜花日並べて:前歌の「野」「夜」を承けて、「山」「日」という。(伊藤脚注)

(注)いたく恋ひめやも:こうもひどく心引かれることがあろうか。賞美の強さを示す。(伊藤脚注)

(注の注)いたく【甚く】副詞:はなはだしく。ひどく。(学研)

 

 

◆吾勢子尓 令見常念之 梅花 其十方不所見 雪乃零有者

      (山部赤人 巻八 一四二六)

 

≪書き下し≫我が背子(せこ)に見せむと思ひし梅の花それとも見えず雪の降れれば

 

(訳)あの方にお見せしようと思っていた梅の花、どれがそれとも見分けがつかない。雪が枝に降り積もっているので。(同上)

(注)梅の花:前歌の「山桜花」に応じる。(伊藤脚注)

 

 

◆従明日者 春菜将採跡 標之野尓 昨日毛今日毛 雪波布利管

      (山部赤人 巻八 一四二七)

 

≪書き下し≫明日(あす)よりは春菜(はるな)摘むむと標(し)めし野に昨日(きのふ)も今日(けふ)も雪は降りつつ

 

(訳)明日から春の若菜を摘もうと標縄(しめなわ)を張りめぐらしておいた野に、昨日も今日も雪は降りつづいていて・・・・・・。(同上)

(注)「春菜摘まむと標めし野に」:一四二四歌の上二句に応じる。(伊藤脚注)

 

 

 

一四二四歌の歌碑の主なものをみてみよう。




 

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉植物園 植物ガイド105」(袖ケ浦市郷土博物館発行)

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」