万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉集の世界に飛び込もう―万葉歌碑を訪ねて(その2354)―

■けいとう■

「万葉植物園 植物ガイド105」(袖ケ浦市郷土博物館発行)より引用させていただきました。

●歌は、「我がやどに韓藍蒔き生ほし枯れぬれど懲りずてまたも蒔かむとぞ思ふ」である。

千葉県袖ケ浦市下新田 袖ヶ浦公園万葉植物園万葉歌碑(プレート)(山部赤人) 20230926撮影

●歌碑(プレート)は、千葉県袖ケ浦市下新田 袖ヶ浦公園万葉植物園にある。

 

●歌をみていこう。

 

題詞は、「山部宿祢赤人歌一首」<山部宿禰赤人が歌一首>である。

 

◆吾屋戸尓 韓藍種生之 雖干 不懲而亦毛 将蒔登曽念

          (山部赤人 巻三 三八四)

 

≪書き下し≫我(わ)がやどに韓藍(からあゐ)蒔(ま)き生(お)ほし枯れぬれど懲(こ)りずてまたも蒔(ま)かむとぞ思ふ

 

(訳)わが家(や)の庭に韓藍(からあい)を蒔いて育てて、それは枯れ果ててしまったけれど、懲りずにまた蒔こうと思います。(「万葉集 一」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)

(注)韓藍:ここは愛する女性の譬え。(伊藤脚注)

(注の注)からあゐ【韓藍】:①ケイトウの古名。② 美しい藍色。(weblio辞書 デジタル大辞泉)ここでは①の意

(注)おほす【生ほす】他動詞:①生育させる。伸ばす。生やす。②養育する。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

(注)枯れぬれど:縁がなくなったことの譬え。(伊藤脚注)

 

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感想(1件)

この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1166)」で「からあゐ」を詠んだ歌四首の中で紹介している。

 ➡ 

tom101010.hatenablog.com

 

 

 

 「からあゐ」については、「植物で見る万葉の世界」(國學院大學「万葉の花の会」発行)に、「『韓藍』は韓の国から渡来した藍(染料になる草の意)で、現在のケイトウのことである。ケイトウは『鶏頭』と書くが、雄鶏のトサカのこと。この花軸が帯化(石化)して鶏のトサカに似ているためにトサカグサ・ケイトウカなどと呼ばれた。西洋でもオンドリノトサカと呼ばれている。色は・・・鮮やかな赤が基本である。これを摺り染めの材としたり、植栽したり、若葉は食用とした。この鮮やかな赤の色が熱烈な恋心を表し、または若い美しい女性を表すものとされた。」と書かれている。

(注)cockscomb flower

「からあゐ」(ケイトウ)稲見中央万葉公園 20211105撮影

 

 拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1166)」で紹介しているが、改めて他の三首もみてみよう。

 

 

◆秋去者 影毛将為跡 吾蒔之 韓藍之花乎 誰採家牟

       (作者未詳 巻七 一三六二)

 

≪書き下し≫秋さらば移(うつ)しもせむと我(わ)が蒔(ま)きし韓藍(からあゐ)の花を誰(た)れか摘(つ)みけむ

 

(訳)秋になったら移し染めにでもしようと、私が蒔いておいたけいとうの花なのに、その花をいったい、どこの誰が摘み取ってしまったのだろう。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)移しもせむ:移し染めにしようと。或る男にめあわせようとすることの譬え。(伊藤脚注)

(注の注)うつす【移す】他動詞:①動かす。移動させる。置き変える。②流罪にする。③(心を)動かす。心変わりする。気をとられる。④しみ込ませる。⑤(時を)過ごす。経過させる。⑥物の怪(け)をほかにのりうつらせる。(学研)ここでは➃の意

(注)誰(た)れか摘(つ)みけむ:あらぬ男に娘を捕えられた親の気持ち。(伊藤脚注)

 

 

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◆戀日之 氣長有者 三苑圃能 辛藍花之 色出尓来

       (作者未詳 巻十 二二七八)

 

≪書き下し≫恋ふる日の日(け)長くしあれば我(わ)が園(その)の韓藍(からあゐ)の花の色に出(い)でにけり

 

(訳)恋い焦がれる日数が重なるばかりなので、我が家の園に咲く韓藍(からあい)の花の色のように、とうとう胸の思いをおもてに出してしまった。(「万葉集 二」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)

(注)「我(わ)が園(その)の韓藍(からあゐ)の花の」は序。「色に出づ」を起こす。(伊藤脚注)

(注)西本願寺本では「三苑圃能」:みそのふの→あなたの家の庭の、となるが、元暦校本、紀州本では「三→我」である。

 

 

 

◆隠庭 戀而死鞆 三苑原之 鶏冠草花乃 色二出目八方

        (作者未詳 巻十一 二七八四)

 

≪書き下し≫隠(こも)りには恋ひて死ぬともみ園生(そのふ)の韓藍(からあゐ)の花の色に出(い)でめやも

 

(訳)思いを内に押し隠したまま恋い焦がれて死んでしまおうとも、お庭に咲く鶏頭の花の色のように、はっきり顔に出したりなどいたしましょうか。(「万葉集 三」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)

(注)「み園生(そのふ)の韓藍(からあゐ)の花の」は序。「色に出づ」を起こす。(伊藤脚注)

(注)そのふ【園生】名詞:庭。植物を栽培する園。(学研)

 

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 二二七八、二七八四歌は、「韓藍の花の色に出で」と、ケイトウの花の色をさらに強調している。それだけの強い思いを感じさせるのである。

 

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 一」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集 三」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「植物で見る万葉の世界」(國學院大學「万葉の花の会」発行)

★「万葉植物園 植物ガイド105」(袖ケ浦市郷土博物館発行)

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「weblio辞書 デジタル大辞泉