万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉集の世界に飛び込もう―万葉歌碑を訪ねて(その2433)―

■みつまた■

「万葉植物園 植物ガイド105」(袖ケ浦市郷土博物館発行)より引用させていただきました。

●歌は、「春さればまづさきくさの幸くあらば後にも逢はむな恋ひそ我妹」である。

千葉県袖ケ浦市下新田 袖ヶ浦公園万葉植物園万葉歌碑(プレート)(柿本人麻呂歌集) 20230926撮影

●歌碑(プレート)は、千葉県袖ケ浦市下新田 袖ヶ浦公園万葉植物園にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆春去 先三枝 幸命在 後相 莫戀吾妹

      (柿本人麻呂歌集 巻十  一八九五)

 

≪書き下し≫春さればまづさきくさの幸(さき)くあらば後(のち)にも逢はむな恋ひそ我妹(わぎも)

 

(訳)春になると、まっさきに咲くさいぐさの名のように、命さえさいわいであるならば、せめてのちにでも逢うことができよう。そんなに恋い焦がれないでおくれ、お前さん。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)上二句「春去 先三枝」は、「春去 先」が「三枝」を起こし、「春去 先三枝」が、「幸(さきく)」を起こす二重構造になっている。

(注)さきくさ【三枝】名詞:植物の名。枝・茎などが三つに分かれているというが、未詳。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

(注)そ 終助詞:《接続》動詞および助動詞「る」「らる」「す」「さす」「しむ」の連用形に付く。ただし、カ変・サ変動詞には未然形に付く。:①〔穏やかな禁止〕(どうか)…してくれるな。しないでくれ。▽副詞「な」と呼応した「な…そ」の形で。②〔禁止〕…しないでくれ。▽中古末ごろから副詞「な」を伴わず、「…そ」の形で。 ⇒参考:(1)禁止の終助詞「な」を用いた禁止表現よりも、禁止の副詞「な」と呼応した「な…そ」の方がやわらかく穏やかなニュアンスがある。(2)上代では「な…そね」という形も併存したが、中古では「な…そ」が多用される。(学研)

 

 一八九五歌の上二句「春去 先三枝」は、「春去 先」が「三枝」を起こし、「春去 先三枝」が、「幸(さきく)」を起こす二重構造、「二重の序」になっている。

 

 この歌ならびに「二重の序」についてはブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その1053)」で紹介している。

 

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 「さきくさ」については、一般的に定説化している「ミツマタ」以外に「ミツバゼリ」、「ヤマユリ」、「イカリソウ」、「イネ」など14種類が該当するのではと考えられている。

 「イカリソウ」については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その2346)」で、「さきくさ」と詠まれた集中二首のうちの山上憶良の九〇四歌と共に紹介している。

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 話が少し脱線するが、奈良市本子守町 率川(いさがわ)神社では「三枝(さいくさ)祭り」(別名「ゆりまつり」)が行われる。

 三枝祭りについては、同神社HPに「三枝祭は、その起源も古く、文武天皇大宝元年(701)制定の『大宝令』には既に国家の祭祀として規定されており、大神神社で行われる鎮花祭と共に疫病を鎮めることを祈る由緒あるお祭りです。昔、御祭神姫蹈韛五十鈴姫命(ひめたたらいすずひめのみこと)が三輪山の麓、狭井川のほとりにお住みになり、その附近には笹ゆりの花が美しく咲き誇っていたと伝えられ、そのご縁故により、後世にご祭神にお慶びいただくために酒罇に笹ゆりの花を飾っておまつりする様になったと言い伝えられています。国が行うお祭りとして重んぜられた三枝祭は、平安時代には宮中からの使いが御供えの幣物や神馬を献上するなど、非常に丁重な祭祀が行われましたが、後世いつの間にか中絶していたのを明治十四年再び古式の祭儀に復興され、現在に及んでいます。このお祭りの特色は、黒酒、白酒の神酒を『罇(そん)』『缶(ほとぎ)』と称する酒罇に盛りその酒罇の周囲を三輪山に咲き匂う百合の花で豊かに飾り、優雅な楽の音につれて神前にお供えする事です。又神饌は古式に則り美しく手が加えられ、折櫃に納めます。そして、柏の葉で編んで作ったふたをして、黒木の御棚と言う台にのせて宮司自らがお供えします。」と書かれている。

 

 翠川神社にも万葉歌碑がある。

 

歌をみてみよう。

 

◆波祢蘰今為妹乎浦若三去来率去河之音之清左

      (作者未詳 巻七 一一一二)

 

≪書き下し≫はねかづら今する妹(いも)をうら若みいざ率川(いざかは)の音のさやけさ

 

(訳)はねかずらを今着けたばかりの子の初々(ういうい)しさに、さあおいでと誘ってみたい、そのいざという名の率川(いざがわ)の川音の、何とまあすがすがしいことか。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫よ)

(注)はねかづら:髪飾りの鬘。若い女がつける。「いざ」まで序。「率川」を起す。(伊藤脚注)

(注)うらわかし【うら若し】形容詞:①木の枝先が若くてみずみずしい。②若くて、ういういしい。 ⇒参考:①の用例の「うら若み」は、形容詞の語幹に接尾語「み」が付いて、原因・理由を表す用法。(学研)ここでは①の意

(注)いざ 感動詞:①さあ。▽人を誘うときに発する語。②どれ。さあ。▽行動を起こすときに発する語。 ⇒注意:「いさ」は別語。(学研)

(注)率川:春日山を発して佐保川に注ぐ川。(伊藤脚注)

 

 この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その36改)」で紹介している。

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(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「植物で見る万葉の世界」(國學院大學「万葉の花の会」発行)

★「万葉植物園 植物ガイド105」(袖ケ浦市郷土博物館発行)

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「率川神社HP」