万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉集の世界に飛び込もう―万葉歌碑を訪ねて(その2351)―

■かわらなでしこ■

「万葉植物園 植物ガイド105」(袖ケ浦市郷土博物館発行)より引用させていただきました。

●歌は、「秋さらば見つつ偲へと妹が植ゑしやどのなでしこ咲きにけるかも」である。

千葉県袖ケ浦市下新田 袖ヶ浦公園万葉植物園万葉歌碑(プレート) 20230926撮影

●歌碑(プレート)は、千葉県袖ケ浦市下新田 袖ヶ浦公園万葉植物園にある。

 

●歌をみていこう。

 

題詞は、「又家持見砌上瞿麦花作歌一首」<また、家持、砌(みぎり)の上(うへ)の瞿麦(なでしこ)の花を見て作る歌一首>である。

(注)みぎり【砌】「水限(みぎり)」の意で、雨滴の落ちるきわ、また、そこを限るところからという》:①時節。おり。ころ。「暑さの—御身お大事に」「幼少の—」②軒下や階下の石畳。③庭。➃ものごとのとり行われるところ。場所。⑤水ぎわ。水たまり。池。(weblio辞書 デジタル大辞泉)ここでは②の意

 

 

◆秋去者 見乍思跡 妹之殖之 屋前乃石竹 開家流香聞

        (大伴家持 巻三 四六四)

 

≪書き下し≫秋さらば見つつ偲へと妹(いも)が植ゑしやどのなでしこ咲きにけるかも

 

(訳)「秋になったら、花を見ながらいつもいつも私を偲(しの)んで下さいね」と、いとしい人が植えた庭のなでしこ、そのなでしこの花はもう咲き始めてしまった。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

(注)咲きにけるかも:早くも夏のうちに咲いたことを述べ、秋の悲しみが一層増すことを予感している。(伊藤脚注)

 

 

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感想(1件)

 四六二歌の題詞は、「十一年己卯夏六月大伴宿祢家持悲傷亡妾作歌一首」<十一年己卯(つちのとう)の夏の六月に、大伴宿禰家持、亡妾(ぼうせふ)を悲傷(かな)しびて作る歌一首>である。

家持が「妾」を亡くし、天平十一年(739年 家持22歳)に「亡妾を悲傷(かな)しびて作った一連の歌群(四六二~四七四歌)のうちの一首である。

一連の「亡妾悲歌」については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その2264)」で紹介している。

➡ 

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 「なでしこ」については、「植物で見る万葉の世界」(國學院大學「万葉の花の会」発行)に「万葉の歌人山上憶良が秋の七種の一つとして万葉の早いころに詠んだ歌は、よく知られる。ほかに集中25首と多く詠まれているのは、その可憐な美しさによるのであろう。先端がこまかく裂けた花弁、淡いピンクと白がおりなす微妙な色合いは格別である。『なでしこ』をこよなく愛好した大伴家持は11首を詠んでいる。そのほとんどが、・・・恋慕の情を込めたものである。」そしてこの四六四歌について、「これは、庭に咲いた『なでしこ』を愛でながら、若くして亡くなった人を偲んだもので寂寥が漂う。」と書かれている。

 さらに「河原に多く自生していることから『カワラナデシコ』の別名で呼ばれている。また、渡来した『唐ナデシコ』に対して、『大和ナデシコ』とも呼ばれるが、これは、つつましい美しさを具えた日本女性の象徴として使われることが多かった・・・」とも書かれている。

 

 山上憶良の秋の七種の歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その62改)」で紹介している。

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tom101010.hatenablog.com

 

 

 

 家持が詠んだ「なでしこ」十一首については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1808)」で紹介している。

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tom101010.hatenablog.com

 

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 一」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「植物で見る万葉の世界」(國學院大學「万葉の花の会」発行)

★「万葉植物園 植物ガイド105」(袖ケ浦市郷土博物館発行)

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「weblio辞書 デジタル大辞泉