万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その684)―相生市矢野町森 磐座神社―万葉集 巻十 二一七八、二一七九

●歌は、「妻ごもる矢野の神山露霜ににほひそめたり散らまく惜しも」と、「朝露ににほひそめたる秋山にしぐれな降りそありわたるがね」の2首である。

 

f:id:tom101010:20200820165159j:plain

相生市矢野町森 磐座神社万葉歌碑(柿本人麻呂歌集)

●歌碑は、相生市矢野町森 磐座(いわくら)神社にある。

 

f:id:tom101010:20200820165349j:plain

磐座神社鳥居と境内

●歌をみていこう。

 

題詞は、「詠黄葉」<黄葉(もみち)を詠む>である。

(注)黄葉(もみち):ここでは、山野の草木の色づきの意。

 

妻隠 矢野神山 露霜尓 々寶比始 散巻惜

                (柿本人麻呂歌集 巻十 二一七八)

 

≪書き下し≫妻ごもる矢野(やの)の神山(かみやま)露霜(つゆしも)ににほひそめたり散らまく惜(を)しも

 

(訳)妻と隠(こも)る屋(や)というではないか、野の神山は、冷え冷えとした露が降りて美しく色づきはじめた。このもみじの散るのが、今から惜しまれてならぬ。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)つまごもる【夫籠もる・妻籠もる】( 枕詞 ):①物忌みなどのため「つま」のこもる屋の意で、「屋上(やかみ)の山」「矢野の神山」にかかる。②地名「小佐保(おさほ)」にかかる。かかり方未詳。 (weblio辞書 三省堂 大辞林 第三版)

(注)にほふ【匂ふ】自動詞:美しく染まる。(草木などの色に)染まる。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

 

 

◆朝露尓 染始 秋山尓 鍾礼莫零 在渡金

               (柿本人麻呂歌集 巻十 二一七九)

 

≪書き下し≫朝露(あさつゆ)ににほひそめたる秋山にしぐれな降りそありわたるがね

 

(訳)朝露に濡れて色付きはじめた秋の山に、時雨よ降らないでおくれ。この見事な風情がいついつまでも続くように。(同上)

(注)ありわたる【在り渡る】自動詞:ずっとそのままの状態で時を過ごす。(学研)

(注)がね 接続助詞:《接続》動詞の連体形に付く。①〔理由〕…であるから。…だろうから。②〔目的〕…ために。…ように。 ※参考「がね」は文末に置かれるので、「終助詞」という説もあるが、倒置と考えられるので、接続助詞とする説に従う。上代語。(学研)

 

 左注は、「右二首柿本朝臣人麻呂之歌集出」<右の二首は、柿本朝臣人麻呂が歌集に出づ>である。

 

「磐座神社」については、「相生歴史資料マップ3 磐座神社(兵庫県教育委員会)」に詳しく書かれている。 ➡ こちら

 

8月3日、久々に万葉歌碑巡りを計画、相生市まで足を伸ばすことにした。

計画は、自宅⇒磐座(いわくら)神社(相生市矢野町森)⇒万葉の岬(相生市相生金ヶ崎)⇒津田天満神社境内社「赤人神社」(姫路市飾磨区構)⇒今在家南第二公園(姫路市飾磨区今在家)⇒津田神社御旅所(姫路市飾磨区思案橋)⇒湊神社(姫路市的形町)⇒日本城郭研究センター(姫路市本町)⇒播磨中央公園(加東市下滝野)であった。

 グーグルアースのストリートビューを使って「万葉の岬」、「今在家南第二公園の歌碑」、「湊神社の歌碑(駐車場からのぞき込む感じなので凡その見当)、「日本城郭研究センター」の位置は調べがついていた。

 

 「縄の浦山部赤人万葉歌碑」やホテル万葉岬の近くの万葉の岬・つばき園の中の「鳴島万葉歌碑」、「山部赤人辛島万葉歌碑」を探して歩き回ったり、津田天満神社に車を停め、境内社の赤人神社付近を歌碑を求めて歩くが見つからず、結局、今在家南第二公園までも歩いて行ったりと結構時間を食ってしまった。

帰りの時間を考え、播磨中央公園はまたの機会にすることにし、帰途につく。高速道路に入る前に、念のためガソリンを満タンにしておこうと最寄りのスタンドに飛び込む。有人スタンドである。係りの人にパンクしているのを見つけてもらった。そこでは修理はできないので、タイヤ専門店を教えてもらう。そこまでもたせるために空気圧をパンパンに。ドッと疲れが吹き出す。修理の間が休憩時間。大きな釘が見事に刺さっている。高速道路に入る前で良かったと胸をなでおろす。とんだハプニングであった。

 

話を振り出しにもどそう。

f:id:tom101010:20200820165731j:plain

由緒等説明案内板

最初の訪問地、磐座神社の前に小川が流れている。橋が架かっており、そのさきに鳥居があり境内へと続いている。橋は時空を越える扉みたいな感じである。渡ると、厳かな、神秘の空間に導かれた雰囲気に包まれる。鳥居をくぐりしばらく進むと、参道の左手、社殿に上がる手前に歌碑はあった。

f:id:tom101010:20200820165555j:plain

社殿

 ところどころに「きつねのかみそり」が花をつけている、ヒガンバナのように葉がなく、茎と花だけである。この花だけでも、神社全体のうら寂しいそれでいて近づきがたいような雰囲気を増長させている。

f:id:tom101010:20200820170516j:plain

きつねのかみそり

 歌碑には柿本人麻呂歌集の歌が二首記されていた。

 幸先良いスタートであった。

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫)

★「相生歴史資料マップ3 磐座神社」 (兵庫県教育委員会HP)」

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「 weblio辞書 三省堂 大辞林 第三版」