万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉集の世界に飛び込もう―万葉歌碑を訪ねて(その2337)―

●歌は、「雄神川紅にほふ娘子らし葦付(水松の類)取ると瀬に立たすらし」である。

富山市松川べり 越中万葉歌石板⑤(大伴家持) 20230705撮影

●歌石板は、富山市松川べり 越中万葉歌石板⑤(大伴家持)である。

 

●歌をみていこう。            

 

題詞は、「礪波郡雄神河邊作歌一首」<礪波(となみ)の郡(こほり)の雄神(をかみ)の川辺(かはへ)びして作る歌一首>である。

(注)礪波郡:富山県西南部の郡。越前との境。(伊藤脚注)

 

◆乎加未河泊 久礼奈為尓保布 乎等賣良之 葦附<水松之類>等流登 湍尓多々須良之

      (大伴家持 巻十七 四〇二一)

 

≪書き下し≫雄神川(をがみかは)紅(くれなひ)にほふ娘子(をちめ)らし葦付(あしつき)<水松之類>取ると瀬(せ)に立たすらし

 

(訳)雄神川、この川は一面に紅色に照り映えている。娘子たちが、葦付<水松の一種>を取るとて、裳裾濡らして立っておられるのであるらしい。(「万葉集 四」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)

(注)雄神川:礪波平野を流れる荘川の、富山県砺波市荘川町付近での古名。(伊藤脚注)

 

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感想(1件)

この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(そのその1349表④~⑥)」で紹介している。

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tom101010.hatenablog.com

 

 

 

 「葦付」については、高岡市万葉歴史館HPに、「その川で水につかりながら、緑褐色で寒天のような形状の『葦付(あしつき)』(アシツキノリのこと)を採る少女たちの裾(すそ)が水に映って川は紅色に染まっていたというのです。まさに絵に描いたような一首です。」と書かれている。

 

 また、「植物で見る万葉の世界」(國學院大學「万葉の花の会」発行)によると、「現在では富山県の天然記念物に指定され、保護されている。・・・集中『葦付』が歌われているのはこの1首だけで、『金葉集』の編者の一人であるといわれる源俊頼(みなもとのとしより)は家集に、『雄神川根白高がやふみしだきとる葦付もせながためとぞ』と、家持の歌中のおとめの立場になって詠んだ恋歌を残している。」と書かれている。

(注)根白高がや:ねじろ‐たかがや【根白高茅】〘名〙:川水などに洗われて、根が白く高く現われた茅。(コトバンク 精選版 日本国語大辞典



 源俊頼の歌に詠われている「根白高がや」は、万葉集では、巻十四 三四九七歌に詠われている。これをみてみよう。

 

◆可波加美能 祢自路多可我夜 安也尓阿夜尓 左宿佐寐弖許曽 己登尓弖尓思可

     (作者未詳 巻十四 三四九七)

 

≪書き下し≫川上(かはかみ)の根白(ねじろ)高萱(たかがや)あやにあやにさ寝(ね)さ寝(ね)てこそ言(こと)に出(で)にしか

 

(訳)川上に茂る根白高萱、その萱ではないが、あやにあやに、そう、むやみやたらにあの子と寝て寝て寝ぬいたからこそ、こんなに噂が立ってしまったんだろうなあ。(同上)

(注)上二句は序。「あや」を起こす。萱(かや)の類音によるものか。(伊藤脚注)

(注)あやに【奇に】副詞:①なんとも不思議に。言い表しようがなく。②むやみに。ひどく。(学研)

(注)ねじろ【根白】:流水に洗われるなどして草木の根の白いこと。(weblio辞書 デジタル大辞泉

(注)しか 分類連語:…か。…か、いや…でない。▽疑問・反語の意を強める。 ⇒なりたち:副助詞「し」+係助詞「か」(学研)

 

 三四九七歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1146)」で紹介している。

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平城宮跡のおもひぐさ(ナンバンキセル)の確認に行ってきました■

 10月2日、おもいぐさ(ナンバンキセル)のその後が気になって、平城宮跡に行ってきました。

 花期は8,9月であるので、今年の見納めと、枯れて黒く佇んでいる姿でも見に行こうと考えたのである。

 今年ずっと観察していた荻の根元のは、予想通りの姿であった。

 また来年だね、とシャッターを押しその姿を収めた。

 帰ろうと歩き出した時、ちょっと離れたところに群生して花を咲かせているのを見つけたのである。

 まだ頑張ってくれていたのだ。こちらの逢いたいという思いが通じたのかもしれない。

 何か心が晴れやかになり、秋の平城宮跡の写真を何枚か写したのである。





 

 

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 四」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「植物で見る万葉の世界」(國學院大學「万葉の花の会」発行)

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「weblio辞書 デジタル大辞泉

★「コトバンク 精選版 日本国語大辞典

★「高岡市万葉歴史館HP」