万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉集の世界に飛び込もう(その2774)―書籍掲載歌を中軸に(Ⅱ)―

●歌は、「廬原の清見の崎の三保の浦のゆたけき見つつ物思ひもなし(田口益人 3-296)」である。

 

清見の崎】

 「田口益人(たぐちのますひと)(巻三‐二九六)(歌は省略) 藤原京の末期の和銅元年(七〇八)二月、当時、政情のゆきづまりや社会不安の高まりのなかで、平城遷都のことが布告され、三月には百官国司らの大異動が行われた。田口益人(たぐちのますひと)は上野国守に任ぜられ、赴任の途上、駿河清見の崎でこの歌をよんだ。『物思(も)ひもなし』も騒然とした都と対比されるものがあるかもしれない。清見の崎も三保もいまは清水市(現静岡市清水区)に合併されているが、もとは庵原(いばら)郡であった。『盧原(いほはら)』はいまの庵原(いばら)の古名である。・・・この歌の上三句は、くどく解説すれば、“廬原の清見の崎から見わたせる三保の浦の・・・”となってせっかくの景観も死んでしまうが、歌では、地名を助詞の『の』を五回かさねて連接し、あたかも移動風景のようにして、この岸もかの崎もその間の海面も空間的に映発しあうように生かされ、その上、『の』の音のつみかさねの律動から、ゆったりとした景と情もうち出されてきて、清見の崎の好風とともに千古にひびく、“物思(も)ひもなし”となっている。」(「万葉の旅 中 近畿・東海・東国」 犬養 孝 著 平凡社ライブラリーより)

 

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 巻三 二九六ならびに二九七歌をみていこう。

■■巻三 二九六・二九七歌■■

題詞は、「田口益人大夫任上野國司時至駿河浄見埼作歌二首」<田口益人大夫(たのくちのますひとのまへつきみ)、上野の国(かみつけのくに)の国司(くにのつかさ)に任(ま)けらゆる時に、駿河清見(きよみ)の埼に至りて作る歌二首>である。

(注)田口益人:和銅元年(七〇八)三月、従五位上で上野守。(伊藤脚注)

(注)上野:群馬県。(伊藤脚注)

(注)清見の埼:静岡市清水区興津清見寺町。(伊藤脚注)

 

■巻三 二九六歌■

◆廬原乃 浄見乃埼乃 見穂之浦乃 寛見乍 物念毛奈信

       (田口益人 巻三 二九六)

 

≪書き下し≫廬原(いほはら)の清見(きよみ)の崎の三保(みほ)の浦(うら)のゆたけき見つつ物思(ものも)ひもなし

 

(訳)廬原(いおはら)の清見の崎の三保の浦、そのゆったりした海原を見ていると、何の物思いも起こらない。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

(注)廬原:静岡市清水区庵原町。(伊藤脚注)

(注)ゆたけし 【豊けし】形容詞:①(空間的に)ゆったりとしている。広々としている。②(気持ち・態度などに)ゆとりがある。おおらかだ。③(勢いなどが)盛大だ。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)ここでは①の意

 

 

 

■巻三 二九七歌■

◆晝見騰 不飽田兒浦 大王之 命恐 夜見鶴鴨

       (田口益人 巻三 二九七)

 

≪書き下し≫昼(ひる)見れど飽(あ)かぬ田子(たご)の浦大君の命(みこと)畏(かしこ)み夜(よる)見つるかも

 

(訳)昼間よく見ても見飽きることのない田子の浦、この田子の浦を、大君の命のままに旅する身とて、夜見て通ることになってしまった。(同上)

(注)田子の浦富士川より西の、蒲原・由比・倉沢の海岸。現在と位置が違う。(伊藤脚注)

 

 

 

三保の松原」 静岡市HPより引用させていただきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 一」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉の旅 中 近畿・東海・東国」 犬養 孝 著 (平凡社ライブラリー

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「静岡市HP」