●歌は、「うつせみは数なき身なり山川のさやけき見つつ道をたづねな」である。
●歌碑は、大安寺境内にある・
●歌をみていこう。
◆宇都世美波 加受奈吉身奈利 夜麻加波乃 佐夜氣吉見都 美知乎多豆祢米
(大伴家持 巻二十 四四六八)
≪書き下し≫うつせみは数なき身なり山川(やまかは)のさやけき見つつ道を尋(たづ)ねな
(訳)生きてこの世に在る人間というものはいくばくもないはかない命を持つ身なのだ。山川の澄みきった地に入り込んで悟りの道を辿(たど)って行きたいものだ。(「万葉集 四」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)
(注)かずなし【数無し】形容詞:①物の数にも入らない。はかない。②数えきれないほど多い。無数である。(学研) ここでは①の意
(注)さやけし【清けし・明けし】形容詞:①明るい。明るくてすがすがしい。清い。②すがすがしい。きよく澄んでいる。 ⇒ 参考「さやけし」と「きよし」の違い 「さやけし」は、「光・音などが澄んでいて、また明るくて、すがすがしいようす」を表し、「きよし」も同様の意味を表すが、「さやけし」は対象から受ける感じ、「きよし」は対象そのもののようすをいうことが多い。(学研)
題詞は、「臥病悲無常欲修道作歌二首」<病に臥して無常(むじやうを悲しび、道を修めむと欲(おも)ひて作る歌二首>である。
(注)道:仏の道
もう一首の方もみてみよう。
◆和多流日能 加氣尓伎保比弖 多豆祢弖奈 伎欲吉曽能美知 末多母安奈美無多米)
(大伴家持 巻二十 四四六九)
≪書き下し≫渡る日の影に競(きほ)ひて尋(たづ)ねてな清(きよ)きその道またもあはむため
(訳)空を渡る日の光に負けずに日々勉めて、尋ね求めたいものだ、清らかな悟りの道を。再びあの佳き世に出逢(であ)うために。(同上)
(注)かげ【影・景】名詞:①(日・月・灯火などの)光。②(人や物の)姿・形。③(心に思い浮かべる)顔・姿。面影。④(人や物の)影。⑤(実体のない)影。(学研) ここでは①の意
(注)きほふ【競ふ】自動詞:①争う。張り合う。②先を争って散る。散り乱れる。(学研)
巻二十 四四七〇歌の左注に、「以前歌六首六月十七日大伴宿祢家持作」<以前(さき)の歌六首は、六月の十七日に大伴宿禰家持作る>である。
四四六五~四四七〇歌の六首である。
四四六五から四四六七歌の題詞は、「喩族歌一首幷短歌」<族(うがら)を喩(さと)す歌一首幷(あは)せて短歌>である。
家持が一族に陰謀に関わってとんでもないことにならないように、と一族を喩している歌である。
一部は、以前のブログ(190227万葉の時代区分・第4期<その2>)で紹介したが再掲載する。
長歌は、前半部は省略してある。終わりの方だけ載せる。
◆「・・・吉用伎曽乃名曽(きよきそのなそ) 於煩呂加尓(おぼろかに) 己許呂於母比弖(こころおもひて) 牟奈許等母(むなことも) 於夜乃名多都奈(おやのなたつな) 大伴乃(おほともの) 宇治等名尓於敝流(うぢとなにおへる) 麻須良乎能等母(ますらをのとも)」
(大伴家持 巻二十 四四六五)
≪書き下し≫・・・清きその名ぞ おぼろかに 心思ひて 空言(むなこと)も 祖(おや)の名絶(た)つな 大伴(おほとも)の 氏(うぢ)と名に負(お)へる ますらをの伴(とも)
(訳)「・・・清らかな継ぎ来たり継い行くべき名なのだ。おろそかに軽く考えて、かりそめにも祖先の名を絶やすでないぞ。大伴の氏と、由来高く清き名に支えられている、ますらおたちよ。(同上)
短歌二首をみてみよう。
◆之奇志麻乃 夜末等能久尓ゝ 安氣良氣伎 名尓於布等毛能乎 己許呂都刀米与
(大伴家持 巻二十 四四六六)
≪書き下し≫磯城島(しきしま)の大和(やまと)の国に明(あき)らけき名に負(お)ふ伴(とも)の男(を)心つとめよ
(訳)磯城島の大和の国に、隠れもなき由来高き名に支えられている大伴の者どもよ、心奮い立たせて努めよ。(同上)
(注)しきしまの【磯城島の・敷島の】分類枕詞:「磯城島」の宮がある国の意で国名「大和」に、また、転じて、日本国を表す「やまと」にかかる。(学研)
(注)あきらけし【明らけし】形容詞:①清らかだ。けがれがない。②はっきりしている。③賢明だ。聡明(そうめい)だ。(学研))
◆都流藝多知 伊与餘刀具倍之 伊尓之敝由 佐夜氣久於比弖 伎尓之師曽乃名曽 (大伴家持 巻二十 四四六七)
≪書き下し≫剣大刀(つるぎたち)いよよ磨(と)ぐべしいにしへゆさやけく負ひて来(き)にしその名ぞ
(訳)剣太刀を研ぐというではないが心をいよいよ磨ぎ澄まして張りつめるべきだ。遠く遥かな御代から紛れもなく負い持って来た大伴という由来高き名なのだ。(同上)
(注)いよよ【愈】副詞:なおその上に。いよいよ。いっそう。(学研)
(注)ゆ 格助詞:《接続》体言、活用語の連体形に付く。①〔起点〕…から。…以来。②〔経由点〕…を通って。…を。③〔動作の手段〕…で。…によって。④〔比較の基準〕…より。 ⇒ 参考 上代の歌語。類義語に「ゆり」「よ」「より」があったが、中古に入ると「より」に統一された。(学研)
(注)さやけし【清けし・明けし】形容詞:①明るい。明るくてすがすがしい。清い。②すがすがしい。きよく澄んでいる。 ⇒ 参考 「さやけし」と「きよし」の違い 「さやけし」は、「光・音などが澄んでいて、また明るくて、すがすがしいようす」を表し、「きよし」も同様の意味を表すが、「さやけし」は対象から受ける感じ、「きよし」は対象そのもののようすをいうことが多い。(学研)
◆美都煩奈須 可礼流身曽等波 之礼ゝ杼母 奈保之祢我比都 知等世能伊乃知乎
(大伴家持 巻二十 四四七〇)
≪書き下し≫水泡(みつぼ)なす仮(か)れる身ぞとは知れれどもなほし願ひつ千年(ちとせ)の命(いのち)を
(訳)水粒(みずつぶ)のようなはかない身だとは、充分に承知しているけれども、それでもやはり願わずにはいられない。千年の命を。
(注)みつぼ>みなわ【水泡】名詞:水の泡。はかないものをたとえていう。 ※「水(み)な泡(あわ)」の変化した語。「な」は「の」の意の上代の格助詞。(学研)
大安寺は、聖徳太子が釈迦の祇園精舎にならって仏教修行の道場として、、平群郡額田部に熊凝精舎(くまごりしょうじゃ)を創建したことにはじまり、飛鳥の藤原京で百済大寺、高市大寺、大官大寺となり、奈良時代、平城京に移って大安寺になったと言われている。
大安寺は、南都七大寺(東大寺、西大寺、法隆寺、薬師寺、元興寺、興福寺、大安寺)の一つ。
(参考文献)
★「萬葉集」鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)
★「万葉の人びと」犬養 孝 著 (新潮文庫)
★「万葉ゆかりの地を訪ねて~万葉歌碑めぐり」(奈良市HP)
★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」
※20210806朝食関連記事削除、一部改訂