万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その109改)―舒明天皇陵近くのせせらぎの側―万葉集 巻二 九二

 

●歌は、「秋山の樹の下かくり逝く水の吾れこそ益さめ御思ひよりは」

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舒明天皇陵近くの万葉歌碑(鏡王女)

 

●歌碑は、舒明天皇陵近くのせせらぎの側にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆秋山之 樹下隠 逝水乃 吾許曽益目 御念従者

                (鏡王女 巻二 九二)

 

≪書き下し≫秋山の木の下隠り行く水の我れこそ増さめ思ほすよりは

 

(訳)秋山の木々の下を隠れ流れる川の水かさが増してゆくように、私の思いの方がまさっているでしょう。あなたが私を思って下さるよりは。(伊藤 博 著 「万葉集 一」角川ソフィア文庫より)

 

この歌は、中大兄皇子天智天皇)との間に恋の歌のやりとりがあり、中大兄皇子からの贈歌に対して和(こた)えた歌である。

 

中大兄皇子の贈られた歌をみてみよう。(難波の都にいた王子時代の歌と言われる)

 

題詞は、「近江大津宮御宇天皇代 天命開別天皇謚日天智天皇 

         天皇賜鏡王女御歌一首」

<近江(あふみ)の大津(おほつ)の宮に天の下知らしめす天皇の代 天命開別天皇(あめみことひらかすわけのすめらみこと)、謚(おくりな)して天智天皇といふ

      天皇、鏡王女(かがみのおほきみ)に賜ふ御歌一首>

 

◆妹之家毛 継而見麻思乎 山跡有 大嶋嶺尓 家母有猿尾

              (中大兄皇子 巻二 九一)

左注は、「一云妹之當継而毛見武尓 一云家居麻之乎」<一には「妹があたり継ぎても見むに」と 一には「家居らましを」といふ>

 

≪書き下し≫妹(いも)が家(いへ)も継ぎて見ましを大和(やまと)なる大島(おほしま)の嶺(ね)に家もあらましを

 

(訳)せめてあなたの家だけでもいつもいつも見ることができたらなあ。大和のあの大島の嶺に我が家でもあったらなあ。<あの子のいるあたりをいつもいつも見たいと思うにつけても><家居して住みつくことができたらなあ>(伊藤 博 著 「万葉集 一」角川ソフィア文庫より)

 

 

 この日(5月31日)の歌碑めぐりの計画は、舒明天皇陵近くの鏡王女、粟原寺跡の弓削皇子額田王、倉橋ため池近くの柿本人麻呂多武峰談山神社藤原鎌足、同東門前の柿本人麻呂、上之宮春日神社の聖徳太子を見て回ることにした。

鏡王女は舒明天皇の皇女で額田王の姉、そして藤原鎌足の正妻である。この日は、鏡王女ゆかりの地を中心に廻ったことになったのである。

前回見つからなかった上之宮春日神社は、グーグルマップで確認している。今回は、残念ながら、粟原寺跡の弓削皇子の歌碑は見つけることができなかった。

 大抵の歌碑の所在地は、現地に近づけば近づくほど道は細くなる。慎重にハンドルをにぎり、漸く舒明天皇陵駐車場にたどり着く。

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舒明天皇陵への坂道

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舒明天皇

 階段をのぼり陵にお参りし歌碑をさがす。駐車場横に。陵に沿う形で、小さなせせらぎが流れている。木々に覆われ静かな影の中を上っていく。「舒明天皇陵(段ノ塚古墳)」や「鏡王女・万葉歌碑」の説明板が陵側に立っている。右側のせせらぎの中に歌碑が立てられていた。せせらぎには、名は知らないが可憐な山野草が花を咲かせていた。

 

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せせらぎに咲く名も知らない山野草

 その後のこの山野草の名は「ユキノシタ」と判明。

 

 

犬養 孝氏は、「万葉の大和路」(旺文社文庫)のなかで、「大和の万葉故地の中で、どこが一番よいか。人おのおのの好みで定められないが、もっとも静謐、黙っていれば、しんしんと木々が語りかけてくるようなところは、舒明天皇押坂内陵(おさかのうちのみささぎ)から右手へ小流に沿う手て登った鏡王女の墓のある山びところの地ではなかろうか。(中略)鏡王女は、近世以来、一般に額田王の姉といわれている人、はじめ中大兄皇子天智天皇)との間に、恋の歌のやりとりがあり、(この歌碑の歌について)「絢爛と愛を披歴するのとはちがって、秋の山の樹の下に隠れて流れてやまない清水のように、深く愛をうちわにひそめてゆくような、つつましやかで、しかも熱烈な思いの人であったらしい。」と書いておられる。

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 一」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉の大和路」 犬養 孝/文 入江泰吉/写真 (旺文社文庫

★「万葉歌碑めぐり」(桜井市HP)

 

※20210412朝食絡み記事削除、一部改訂