万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その114改)―奈良県桜井市上之宮春日神社境内―万葉集 巻三 四一五

●歌は、「家にあらば妹が手まかむ草枕旅にこやせるこの旅人あはれ」である。

 

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奈良県桜井市上之宮春日神社万葉歌碑(聖徳太子

●歌碑は、奈良県桜井市上之宮春日神社境内にある。

 

●歌をみていこう。

 

 題詞は、「上宮聖徳皇子出遊竹原井之時見龍田山死人悲傷御作歌一首  小墾田宮御宇天皇代墾田宮御宇者 豊御食炊屋姫天皇也諱額田謚推古」<上宮聖徳皇子(かみつみやのしやうとこのみこ)、竹原の井(たかはらのゐ)に出遊(いでま)す時に、竜田山(たつたやま)の死人を見て悲傷(かな)しびて作らす歌一首  小墾田の宮に天の下知らしめすは豊御食炊屋姫天皇なり。諱は額田、謚は推古>である。

(注)竹原の井:大阪府柏原市高井田。(伊藤脚注)

(注)小墾田(をはりだ):奈良県高市郡飛鳥(あすか)地方のこと。(weblio辞書 デジタル大辞泉

(注)豊御食炊屋姫尊(とよみけかしきやひめのみこと):推古天皇(コトバンク 講談社デジタル版 日本人名大辞典+Plus)

(注)推古天皇(554~628) 記紀で第三三代天皇(在位592~628)の漢風諡号しごう。名は額田部(ぬかたべ)。豊御食炊屋姫(とよみけかしきやひめ)とも。欽明天皇第三皇女。敏達天皇の皇后。崇峻天皇蘇我馬子に殺されると、推されて即位。聖徳太子を皇太子・摂政として政治を行い、飛鳥文化を現出。(コトバンク 「大辞林第三版」)

 

◆家有者 妹之手将纏 草枕 客尓臥有 此旅人 ▼怜

        (聖徳太子 巻三 四一五)

   ▼は、「忄+可」。→「▼怜」=「あはれ」

 

≪書き下し≫家ならば妹(いも)が手まかむ草枕旅に臥(こ)やせるこの旅人(たびと)あはれ   

 

(訳)家にいたなら、いとしい妻の腕(かいな)を枕にしているであろうに、草を枕に旅先で一人倒れ臥しておられるこの旅のお方は、ああいたわしい。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

(注)上二句は下三句に対する。(伊藤脚注)

(注)「臥やす」は「臥ゆ」の敬語。死者への敬意を示す。(伊藤脚注)

 

 

 大化改新は新しい国家体制を作り上げた。

大化改新は、大化元年(645)から翌年にかけて中大兄皇子(なかのおおえのおうじ)・中臣鎌足(なかとみのかまたり)が中心となって行った、蘇我氏打倒に始まる一連の政治改革。唐の律令制を手本として、公地公民制による中央集権国家建設を目的としたもの。皇族・豪族の私有地・私有民の廃止、地方行政制度の確立、班田収授の法の実施、租庸調などの統一的な税制の実施などをうたった改新の詔(みことのり)を公布。大宝元年(701)の大宝律令の制定によってその政治制度は確立した。」(コトバンクデジタル大辞泉」)

 万葉集は、いわば、大化改新を出発点としてよまれ続けられた歌の集大成であると言っても過言ではない。

 大化改新の前、万葉の前夜はどのような時代であったのかというと、氏族制社会とよばれる、各地の氏族がそれぞれ支配権をほこり、連合する形で朝廷はそれらを統括していたのである。その中でも蘇我馬子を中心に、蘇我氏は強力で朝廷をしのぐほどであったといわれる。7世紀はじめの朝廷の課題は、それを排除し完全な王権の確立であったのはいうまでもない。

 時の皇太子である、聖徳太子は、中国大陸の学問・制度にも詳しく、それらの制度を取り入れ朝廷の支配権を確立させようとしていた。太子の試みは蘇我氏の厚い壁を破ることはなかったが、この歌の心は「十七条憲法」にもあふれ、大化改新への序章になっていくのである。

 

 この歌に関して、中西 進氏は「万葉の心」(毎日新聞社)のなかで、「竜田路を大和から河内(大阪府)に越えた竹原井(たけはらい)というところで死者を見かけて作った、と題がついているが、「日本書記」では同じように道傍に飢えて倒れている旅人を見て、片岡で作ったという類似の歌があり、場所をかえつつ伝承された聖徳太子物語の歌で、必ずしも太子自身の作ではない。」と書かれている。

 

 

 

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春日神社名碑

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鳥居と境内

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春日神社拝殿

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 一」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉の心」 中西 進 著 (毎日新聞社

★「万葉歌碑めぐり」(桜井市HP)

★「コトバンク大辞林第三版)」

★「コトバンクデジタル大辞泉)」

   

※20210514朝食関連記事削除、一部改訂