万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その192)―京都府京田辺市咋岡神社(飯岡)―万葉集 巻九 一七〇八

●歌は、「春草を馬咋山ゆ越え来なる雁の使は宿り過ぐなり」である。

 

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京田辺市咋岡神社<飯岡>万葉歌碑(作者未詳)

●歌は、京田辺市 咋岡神社(くいおかじんじゃ)(飯岡:いのおか)にある。

 

 井手町の歌碑2つを巡ったあと、京田辺市の咋岡神社に向かう。ナビをセットし目的地に到着。車を空き地に止め、鳥居をくぐる。神社の横には小学校があり元気な子供たちの声がこだまする。

 境内を探すが、見つからない。神社の場合境内との接点上にあることがある。用水路の外から神社の境界線上を探しながら周りを一周する。見当たらない。

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咋岡神社(草内)名碑

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咋岡神社(草内)鳥居と境内

 諦めて車に戻る。スマホで再検索。京田辺市観光協会の「万葉歌碑」を見ると歌碑の写真があり、歌碑の後ろに社の一部が写っている。もう一度この写真をてがかりにありそうな場所を探す。結局見つからずに車に戻る。もう一度スマホで検索する。地図を拡大してみると、括弧書きで(飯岡)と書いてある。現在地を見ると、目の前の神社は、咋岡神社(草内)であることが判明。

 

 気を取り直して、咋岡神社(飯岡)へと向かう。神社近くは、車幅一杯の道である。車を止められそうにないので、木津川に出る。少し道路わきの広いところに車を止め、歩いて神社に向かう。漸く歌碑を見つける。写真のとおり、歌碑のうしろに社が!

 

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咋岡神社(飯岡)名碑

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咋岡神社(飯岡)鳥居t境内

 

 そういえば、平城宮跡の北に位置する、佐紀神社は、池をはさんで東西に同名の神社があった。佐紀神社(亀岡)と同(西畑)である。

実は、一か月後、城陽市の荒見神社でも同じ経験をするのである。近隣に同名の神社があることが不思議である。

 

 どちらの咋岡神社も、拝殿の上方に「枡と枡掻き」が奉納されていた。よく見ると、奉納者の歳はいずれも八十八歳となっている。

 枡の摺り切り棒は、一般的に何というのかを調べてみると、「コトバンク 大辞林 第三版の解説」に「ますかき【枡掻き・枡搔き・升掻き・升搔き】」とあり、「① 枡に盛った穀類などを、縁の高さにならすのに使う棒。とかき。② 『八十八の升搔き』の略。」と解説があった。②の【八十八の升掻き・八十八の升搔き】を検索すると、「八八歳(=米寿)の人に米の升搔きを切ってもらい、商売繁盛の縁起を祝うこと」とあった。長寿を祝う意味も込めて、奉納されたのであろう。

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「枡と枡掻き」の奉納


 

 

●歌をみていこう。

 

◆春草 馬咋山自 越来奈流 鴈使者 宿過奈利

                                    (作者未詳 巻九 一七〇八)

 

≪書き下し≫春草を馬咋山ゆ越え来(く)なる雁の使(つかひ)は宿り過ぐなり

 

(訳)春の若草を馬が食うという、その咋山(くひやま)を越えて鳴き渡って来た雁の使いは、今しもこの旅の宿りの上空を素通りして行く。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)咋山(くひやま):京都府京田辺市の飯岡という。木津川(泉川)の西岸。

(注)かりのつかひ【雁の使ひ】:《「漢書」蘇武伝の、匈奴(きょうど)に捕らえられた前漢の蘇武が、手紙を雁の足に結びつけて放ったという故事から》便り。手紙。かりのたまずさ。かりのたより。かりのふみ。雁書。雁信。雁使(がんし)。(コトバンク デジタル大辞泉より)

 

題詞は、「泉河邊作歌一首」<泉川(いづみがわ)の辺(へ)にして作る歌一首>である。

(注)泉川:木津川の古名。

 

 木津川堤防の道に車を止めたが、題詞の如く「泉河邊作歌」であることが納得できた。近くには「飯岡の渡し場跡」の碑もあった。

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「飯岡の渡し場跡」の碑

 また、「玉露の郷 飯岡(いのおか)」の説明案内板もあった。

 

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玉露の郷 飯岡」の碑

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「コトバンク デジタル大辞泉

★「コトバンク 大辞林 第三版」

★「万葉歌碑」 京田辺市観光協会HP

 

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