●歌は、「芝付の御宇良崎なるねつこ草相見ずあらずば我れ恋ひめやも」である。
●歌をみていこう。
◆芝付乃 御宇良佐伎奈流 根都古具佐 安比見受安良婆 安礼古非米夜母
(作者未詳 巻十四 三五〇八)
≪書き下し≫芝付(しばつき)の御宇良崎(みうらさき)なるねつこ草(ぐさ)相見(あひみ)ずあらずば我(あ)れ恋ひめやも
(訳)芝付(しばつき)の御宇良崎(みうらさき)のねつこ草、あの一緒に寝た子とめぐり会いさえしなかったら、俺はこんなにも恋い焦がれることはなかったはずだ(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)。
(注)ねつこぐさ【ねつこ草】〘名〙: オキナグサ、また、シバクサとされるが未詳。(コトバンク 精選版 日本国語大辞典精選版 )
(補注)ねつこ草は女性の譬え。「寝つ子」を懸ける。
環境省HP「生物情報 収集・提供システム いきものログ」で「オキナグサ」をみてみると、次のように書かれている。
「被子植物 双子葉類 離弁花類 キンポウゲ科 オキナグサ Pulsatilla cernua
分布
本州・四国・九州
ランク
絶滅危惧II類(VU)
オキナグサは日当たりのよい草地に生育する多年草です。日本では本州、四国、九州のほとんどの都道府県に自生し、海外では朝鮮半島、中国大陸にかけて分布しています。各地にオバガシラ、オジノヒゲ、カワラノオバサン、ユーレイバナなどのさまざまな地方名があることからも分かるように、かつては身近に見られ、それほど希少な植物ではありませんでした。
花は4月から5月に咲き、花茎の先に一輪ずつつけます。鐘形の花は、はじめ下向きに咲きますが、やがて上向きになります。ガク片は6枚で、内側は暗紫色ですが、外側は白毛に覆われています。葉の表面はほとんど無毛ですが、根出葉や花茎にも長い白毛を密生し、全体的に白い毛で覆われたような印象を受けます。花の後、球状に集まった多数の種子がつき、長さ3mmほどの種子の先1つひとつから、3~5cmの長い花柱が伸びます。花柱は灰白色の羽毛を密生します。和名のオキナグサはその姿を白髪の翁に見立てたものです。
オキナグサが減少した大きな要因として、園芸目的の採集があげられます。美しくかつ珍しい植物の多くが、このような採集の対象になっています。もう一つの理由として、オキナグサが生育していた草地が管理放棄により別の植生へと遷移が進んでしまったことや、草地そのものの開発によって自生地が少なくなったことも減少要因として考えられています。」
植物の外来種の問題も考えておくべきである。セイタカアワダチソウは、いたるところに生息しており、万葉歌碑などの撮影の際には興ざめとなる。ススキや葦を撮影することが多いが、セイタカアワダチソウと陣取り合戦をやっている。
日本の歴史の重みをもあらためて感じて行きたいものである。
(参考文献)
★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)
★「生物情報 収集・提供システム いきものログ」 (環境省HP)