<一宮市2⃣>
「高松論争」となった六つの歌碑以外をみてみよう。
■愛知県一宮市萩原町戸刈 萬葉公園万葉歌碑(巻十 2107)■
●歌をみていこう。
◆事更尓 衣者不揩 佳人部為 咲野之芽子尓 丹穂日而将居
(作者未詳 巻十 二一〇七)
≪書き下し≫ことさらに衣(ころも)は摺(す)らじをみなへし佐紀野の萩ににほひて居らむ
(訳)わざわざこの着物は摺染めにはすまい。一面に咲き誇るこの佐紀野の萩に染まっていよう。(「万葉集 二」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)
(注)ことさらなり【殊更なり】形容動詞①意図的だ。②格別だ。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)
(注)をみなへし:「佐紀野」の枕詞。(伊藤脚注)。
(注)佐紀野:平城京北部の野。(伊藤脚注)
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この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その948)」で紹介している。
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■愛知県一宮市萩原町戸刈 萬葉公園万葉歌碑<巻三 二六六>■
●歌をみていこう。
◆淡海乃海 夕浪千鳥 汝鳴者 情毛思努尓 古所念
(柿本人麻呂 巻三 二六六)
≪書き下し≫近江の海夕波千鳥汝が鳴けば心もしのにいにしへ思ほゆ
(訳)近江の海、この海の夕波千鳥よ、お前がそんなに鳴くと、心も撓(たわ)み萎(な)えて、いにしえのことが偲ばれてならぬ。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)
(注)ゆふなみちどり【夕波千鳥】名詞:夕方に打ち寄せる波の上を群れ飛ぶちどり。(学研)
(注)しのに 副詞:①しっとりとなびいて。しおれて。②しんみりと。しみじみと。③しげく。しきりに。(学研)ここでは②の意
(注)いにしへ:天智朝の昔。(伊藤脚注)
この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その949)」で紹介している。
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■愛知県一宮市萩原町高松 高松分園万葉歌碑<巻十 二一〇一>■
高松分園の西側の出入り口の側に「萬葉公園設立五十周年記念樹」の石碑の右側面にこの歌が刻されている。
●歌をみていこう。
◆吾衣 揩有者不在 高松之 野邊行之者 芽子之揩類曽
(作者未詳 巻十 二一〇一)
≪書き下し≫我(あ)が衣(ころも)摺(す)れるにはあらず高松(たかまつ)の野辺(のへ)行きしかば萩の摺れるぞ
(訳)私の衣は、摺染(すりぞ)めしたのではありません。高松の野辺を行ったところ、あたり一面に咲く萩が摺ってくれたのです。(「万葉集 二」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)
(注)摺染(読み)すりぞめ:〘名〙: 染色法の一つ。草木の花、または葉をそのまま布面に摺りつけて、自然のままの文様を染めること。また花や葉の汁で模様を摺りつけて染める方法もある。この方法で染めたものを摺衣(すりごろも)という。(コトバンク 精選版 日本国語大辞典精選版 )
■愛知県一宮市萩原町高松 高松分園万葉歌碑<巻十 二一四二>■
高松分園の西側の出入り口の側に「萬葉公園設立五十周年記念樹」の石碑の左側面にこの歌が刻されている。
●歌をみていこう。
◆左男壮鹿之 妻整登 鳴音之 将至極 靡芽子原
(作者未詳 巻十 二一四二)
≪書き下し≫さを鹿(しか)の妻ととのふと鳴く声の至らむ極(きは)み靡(なび)け萩原(はぎはら)
(訳)雄鹿が妻を呼び寄せようと、鳴き立てる声の届く果てまで、一面に靡け、萩原よ。(「万葉集 二」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)
(注)さをしか【小牡鹿】名詞:雄の鹿(しか)。 ※「さ」は接頭語(学研)
(注)妻ととのふ:妻を呼び寄せようと。(伊藤脚注)
(注)きはみ【極み】名詞:(時間や空間の)極まるところ。極限。果て。(学研)
二一〇一歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その970)」で、二一四二歌ならびに歌碑については、同「同(その971)」で紹介している。
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樫の木文化資料館の前の道路の車避け兼ねた石柱の上に、歌のレリーフが埋め込められた形の歌碑が六基並んで建てられている。
■愛知県一宮市萩原町高松 高松分園万葉歌碑<巻十 二一〇一>■
●歌をみていこう。
◆吾衣 揩有者不在 高松之 野邊行之者 芽子之揩類曽
(作者未詳 巻十 二一〇一)
≪書き下し≫我(あ)が衣(ころも)摺(す)れるにはあらず高松(たかまつ)の野辺(のへ)行きしかば萩の摺れるぞ
(訳)私の衣は、摺染(すりぞ)めしたのではありません。高松の野辺を行ったところ、あたり一面に咲く萩が摺ってくれたのです。(「万葉集 二」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)
(注)摺染(読み)すりぞめ:〘名〙: 染色法の一つ。草木の花、または葉をそのまま布面に摺りつけて、自然のままの文様を染めること。また花や葉の汁で模様を摺りつけて染める方法もある。この方法で染めたものを摺衣(すりごろも)という。(コトバンク 精選版 日本国語大辞典精選版 )
■愛知県一宮市萩原町高松 高松分園万葉歌碑<巻十 二三一九>■
●歌をみていこう。
◆暮去者 衣袖寒之 高松之 山木毎 雪曽零有
(作者未詳 巻十 二三一九)
≪書き下し≫夕されば衣手(ころもで)寒し高松(たかまつ)の山の木ごとに雪ぞ降りたる
(訳)夕方になるにつれて、袖口のあたりがそぞろに寒い。見ると、高松の山の木という木に雪が降り積もっている。(「万葉集 二」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)
(注)高松:「高円」に同じ
■愛知県一宮市萩原町高松 高松分園万葉歌碑<巻十 一八七四>■
●歌をみていこう。
◆春霞 田菜引今日之 暮三伏一向夜 不穢照良武 高松之野尓
(作者未詳 巻十 一八七四)
≪書き下し≫春霞(はるかすみ)たなびく今日(けふ)の夕月夜(ゆふづくよ)清(きよ)く照るらむ高松(たかまつ)の野に
(訳)春霞がたなびく中で淡く照っている今宵(こよい)の月、この月は、さぞかし清らかに照らしていることであろう。霞の彼方の、あの高松の野のあたりでは。(「万葉集 二」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)
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二一〇一歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その976)」で、二三一九歌ならびに歌碑については、同「同(その976)」で、一八七四歌ならびに歌碑については、同「同(その978)」で紹介している。
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■愛知県一宮市萩原町高松 高松分園万葉歌碑<巻十 二一〇七>■
●この歌は、上述の「萬葉公園万葉歌碑(作者未詳)」と同じなので省略させていただきます。
■愛知県一宮市萩原町高松 高松分園万葉歌碑<巻十 二一九一>■
●歌をみていこう。
◆鴈之鳴乎 聞鶴奈倍尓 高松之 野上乃草曽 色付尓家里
(作者未詳 巻十 二一九一)
≪書き下し≫雁(かり)が音(ね)を聞きつるなへに高松(たかまつ)の野(の)の上(うへ)の草ぞ色づきにける
(訳)雁の声を聞いた折しも、高松の野辺一帯の草は色づいてきた。(「万葉集 二」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より
(注)なへに 分類連語:「なへ」に同じ。 ※上代語。 ⇒なりたち接続助詞「なへ」+格助詞「に」(学研)
(注の注)なへ 接続助詞:《接続》活用語の連体形に付く。〔事柄の並行した存在・進行〕…するとともに。…するにつれて。…するちょうどそのとき。(学研)
■愛知県一宮市萩原町高松 高松分園万葉歌碑<巻三 二六六>■
●この歌は、上述の「萬葉公園万葉歌碑<柿本人麻呂>」と同じなので省略させていただきます。
二一〇七歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その977)」で、二一九一歌は、同「同(その978)」、二六六歌は、同「同(その979)」で紹介している。
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萬葉公園ならびに高松分園には植物に因んだ下記のような万葉歌碑(プレート)<プレート以外の碑を除いたため番号は通しになっていません>が多数立てられている。
余韻に浸るべく「萬葉公園案内図」を再掲載いたします。
(参考文献)
★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)
★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」