万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その337)―東近江市糠塚町 万葉の森船岡山(78)―

●歌は、「上つ毛野安蘇山つづら野を広み延ひにしものをあぜか絶えせむ」である。

 

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万葉の森船岡山万葉歌碑(78)(作者未詳)

●歌碑は、東近江市糠塚町 万葉の森船岡山(78)である。

 

●歌をみていこう。

 

◆可美都家野 安蘇夜麻都豆良 野乎比呂美 波比尓思物能乎 安是加多延世武

                (作者未詳 巻十四 三四三四)

 

≪書き下し≫上つ毛(かみつけ)の安蘇山(あそやま)つづら野(の)を広み延(は)ひにしものをあぜか絶えせむ

 

(訳)上野の安蘇(あそ)のお山のつづら、このつづらは野が広いので一面に延び連なっているではないか。この延び連なったものが、何でいまさら絶えてしまうことがあろうか。(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)

(注)つづら 名詞:①【葛・黒葛】つる草の総称。②【葛籠】つる草または竹で編んだ櫃(ひつ)。主に衣類を入れる

(注)あぜ【何】副詞:なぜ。どのように。※上代の東国方言。

(注)上二句は自分の譬え

 

相手への思いを、「つづら」が這い延びている様に喩えて、作者自身の思いを詠っている。万葉集には、「つづら」を詠った歌は二首収録されている。もう一首もみてみよう。

 

駿河能宇美 於思敝尓於布流 波麻都豆良 伊麻思乎多能美 波播尓多我比奴  一云 於夜尓多我比奴

                (作者未詳 巻十四 三三五九)

 

≪書き下し≫駿河(するが)の海(うみ)磯部(おしへ)に生(お)ふる浜つづら汝(いまし)を頼み母に違(たが)ひぬ  一には「親に違ひぬ」といふ

 

(訳)駿河の海の磯部に根生えてどこまでも伸び続ける浜つづら、その浜つづらのように、ずっとあなたを頼みにしつづけて、母さんに背いてしまいました。(同上)

(注)磯辺(おしへ):いそへの訛り

(注)いまし【汝】代名詞:あなた。▽対称の人称代名詞。親しんでいう語。※上代語。

 

愛を貫く思いを詠っている。三四三四歌は、「上野國歌」三首の一首である。なお三三五九歌は、「駿河國歌」である。

 

 ここでは、「上野國歌」の他の二首をみてみよう。

 三四三四から三四三六歌の三首の部立ては「譬喩歌」である。巻十四「東歌」の勘国歌九十五首の譬喩歌九首のなかの三首である。

 

 

◆伊可保呂乃 蘇比乃波里波良 和我吉奴尓 都伎与良之母与 比多敝登於毛敝婆

               (作者未詳 巻十四 三四三五)

 

≪書き下し≫伊香保(いかほ)ろの沿(そ)ひの榛原(はりはら)我(わ)が衣(きぬ)に着(つ)きよらしもよひたへと思へば

 

(訳)伊香保の山の麓の榛(はん)の木の原、この原の木は俺の着物に、ぴったり染まり付くようないい具合だ。着物は一重で裏もないことだし。(同上)

(注)ひたへ:一重(ひとへ)の訛り

(注)上二句が相手の女の譬え。

 

◆志良登保布 乎尓比多夜麻乃 毛流夜麻乃 宇良賀礼勢奈那 登許波尓毛我母

                (作者未詳 巻十四 三四三六)

 

≪書き下し≫しらとほふ小新田山(をにひたやま)の守(も)る山のうら枯(が)れせな常葉(とこは)にもがも

 

(訳)しらとほふ小新田山(おにいたやま)、そのたいせつに守られている山の木々は、末(うら)っぽが枯れたりなんかしないでほしいな。ずっとずっとしたたる青葉のままであってくれたらなあ。

(注)しらとほふ( 枕詞 ):地名「小新田山(おにいたやま)」「新治(にいばり)」にかかる。語義およびかかり方未詳。 (weblio辞書 三省堂 大辞林 第三版         )          

(注)うら【末】名詞:草木の枝や葉の先端。枝先。こずえ。(学研)

(注)上三句は、親に守られている女の譬え。

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 三」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「植物で見る万葉の世界」 國學院大學 萬葉の花の会 著 (同会 事務局)

★「万葉集東歌論」 加藤静雄 著 (桜楓社)

★「weblio辞書 三省堂 大辞林 第三版」

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」