万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その433)―葛城市柿本 柿本神社―万葉集 巻十一 二四五三

●歌は、「春柳葛城山に立つ雲の立ちても居ても妹をしぞ思ふ」である。

 

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葛城市柿本 柿本神社万葉歌碑(柿本人麻呂歌集)

●歌碑は、葛城市柿本 柿本神社にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆春楊 葛山 發雲 立座 妹念

                                  (柿本人麻呂歌集 巻十一 二四五三)

 

≪書き下し≫春柳(はるやなぎ)葛城山(かづらきやま)に立つ雲の立ちても居(ゐ)ても妹(いも)をしぞ思ふ

 

(訳)春柳を鬘(かずら)くというではないが、その葛城山(かつらぎやま)に立つ雲のように、立っても坐っても、ひっきりなしにあの子のことばかり思っている。(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)

(注)春柳(読み)ハルヤナギ:①[名]春、芽を出し始めたころの柳。②[枕]芽を出し始めた柳の枝をかずらに挿す意から、「かづら」「葛城山(かづらきやま)」にかかる。(コトバンク デジタル大辞泉

(注)上三句は序、「立ち」を起こす。

 

 人麻呂歌集の「略体」の典型と言われる歌で、「春楊葛山發雲立座妹念」と各句二字ずつ、全体では十字で表記されている。助辞はすべて読み添えてはじめて歌の体をなす。この詠み添えの前例歌が二首あるので読み方が明らかになるのである。巻十 二二九四歌と巻十二の三〇八九歌である。

 この二首をみてみよう。

 

◆秋去者 雁飛越 龍田山 立而毛居而毛 君乎思曽念

              (作者未詳 巻十 二二九四)

 

≪書き下し≫秋されば雁(かり)飛び越ゆる竜田山(たつたやま)立ちても居(ゐ)ても君をしぞ思ふ

 

(訳)秋になると雁が飛び越えて行く田山ではないが、立つにつけても坐るにつけても、あの方のことばかりが思われる。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)上三句は序、「立ち」を起こす。

 

 

◆遠津人 獦道之池尓 住鳥之 立毛居毛 君乎之曽念

                (作者未詳 巻十二 三〇八九)

 

≪書き下し≫遠(とほ)つ人猟道(かりぢ)の池に棲(す)む鳥の立(た)ちても居(ゐ)ても君をしぞ思ふ

 

(訳)遠来の客である雁にちなみの猟道の池に棲む鳥が、飛び立ったり浮かんだりするように、立つ時となく坐る時となく、いつもあなたのことを思っています。(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)

(注)とほつひと【遠つ人】分類枕詞:①遠方にいる人を待つ意から、「待つ」と同音の「松」および地名「松浦(まつら)」にかかる。②遠い北国から飛来する雁(かり)を擬人化して、「雁(かり)」にかかる。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

 

 

 柿本神社は、葛城市役所新庄庁舎の東側、近鉄御所線近鉄新庄」駅に挟まれた位置にある。柿本神社と柿本山影現寺は同じ敷地内にある。影現寺は柿本神社の神宮寺である。 

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柿本神社

葛城市HPの「柿本神社」に次のように書かれている。

「祭神は『万葉集』第一級の歌人と称される柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)です。石見国島根県益田市)で没した人麻呂を770年に改葬して、かたわらに社殿を建てたのが始まりといわれています。 隣接する影現寺(ようげんじ)と共に、人麻呂の命日に毎年4月18日にはチンポンカンポン祭が行われます。

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柿本人麻呂の墓

 人麻呂による葛城をしのぶ歌としては、『春楊(はるやなぎ) 葛木山に たつ雲の 立ちても坐ても 妹をしそ思ふ』があります。」

 柿本山影現寺HPには、「当山は大和葛城山のふもとに位置し、西暦858年お大師様の高弟柿本紀真済僧正の開基で、当山と並び位置する柿本人麻呂を祀る柿本神社を護持する神宮寺として創建されました。」と書かれている。

 

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柿本山影現寺

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柿本神社拝殿と影現寺本堂

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影現寺沿革説明案内板



 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集 三」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集をどう読むか―歌の『発見』と漢字世界」 神野志隆光 著 (東京大学出版会

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「コトバンク デジタル大辞泉

★「柿本神社」(葛城市HP)

★「柿本山影現寺HP」