―その884―
●歌は、「豊国の企救の高浜高々に君待つ夜らはさ夜更けにけり」である。
●歌をみてみよう。
この歌については、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その879、880)で紹介している。
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◆豊國能 聞乃高濱 高ゝ二 君待夜等者 左夜深来
(作者未詳 巻十二 三二二〇)
≪書き下し≫豊国の企救の高浜(たかはま)高々(たかたか)に君待つ夜(よ)らはさ夜更(よふ)けにけり
(訳)豊国の企救の高浜、高々と砂丘の続くその浜ではないが、高々と爪立(つまだ)つ思いであなたの帰りを待っているこの夜は、もうすっかり更けてしまいました。(「万葉集 三」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より))
(注)上二句は序。「高々に」を起こす。
―その885―
●歌は、「豊国の企救の長浜行き暮らし日の暮れゆけば妹をしぞ思ふ」である。
●歌をみていこう。
この歌については、前稿に同じで、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その879,880)」で紹介している。
◆豊國乃 聞之長濱 去晩 日之昏去者 妹食序念
(作者未詳 巻十二 三二一九)
≪書き下し≫豊国(とよくに)の企救(きく)の長浜(ながはま)行き暮らし日の暮れゆけば妹(いも)をしぞ思ふ
(訳)豊国の企救の長浜、この長々と続く浜を日がな一日歩き続けて、日も暮れ方になってゆくので、あの子のことが思われてならない。(「万葉集 三」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)
(注)企救:北九州市周防灘沿岸の旧郡名。
(注)ゆきくらす【行き暮らす】他動詞:日が暮れるまで歩き続ける。一日じゅう歩く。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典
―その886―
●歌は、「豊国の企救の池なる菱の末を摘むとや妹がみ袖濡れけむ」である。
●歌をみてみよう。
この歌はブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その874)」で紹介している。
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◆豊國 企玖乃池奈流 菱之宇礼乎 採跡也妹之 御袖所沾計武
(作者未詳 巻十六 三八七六)
≪書き下し≫豊国(とよくに)の企救(きく)の池なる菱(ひし)の末(うれ)を摘むとや妹がみ袖濡れけむ
(訳)豊国の企救(きく)の池にある菱の実、その実を摘もうとでもして、あの女(ひと)のお袖があんなに濡れたのであろうか。(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)
(注)企救(きく):北九州市周防灘沿岸の旧都名。フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』の小倉市の歴史の項に「律令制下では豊前国企救郡(きくぐん)の一地域となる。」とある。
(注)袖濡れえむ:自分への恋の涙で濡れたと思いなしての表現。
題詞は、「豊前國白水郎歌一首」<豊前(とよのみちのくち)の国の白水郎(あま)の歌一首>である。
「万葉集 四」(伊藤 博 著 角川ソフィア文庫)の初句索引で見ると、「とよくにの きくの」ではじまる歌は次の五首である。
原文と書き下しを改めて掲載してみる。
(巻七 一三九三歌)ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その883)」で紹介している。
◆豊國之 聞之濱邊之 愛子地 真直之有者 何如将嘆
≪書き下し≫豊国(とよくに)の企救(きく)の浜辺(はまへ)の真砂地(まなごつち)真直(まなほ)にしあらば何か嘆かむ
(巻十二 三一三〇歌)ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その882)」で紹介している。
◆豊洲 聞濱松 心哀 何妹 相云始
≪書き下し≫豊国(とよくに)の企救(きく)の浜松ねもころに何(なに)しか妹(いも)に相(あひ)言(い)ひそめけむ
(巻十二 三二一九歌)ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その885)」で紹介している。
◆豊國乃 聞之長濱 去晩 日之昏去者 妹食序念
≪書き下し≫豊国(とよくに)の企救(きく)の長浜(ながはま)行き暮らし日の暮れゆけば妹(いも)をしぞ思ふ
(巻十二 三二二〇歌)ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その884)」で紹介している。
◆豊國能 聞乃高濱 高ゝ二 君待夜等者 左夜深来
≪書き下し≫豊国の企救の高浜(たかはま)高々(たかたか)に君待つ夜(よ)らはさ夜更(よふ)けにけり
(巻十六 三八七六歌)ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その886)で紹介している。
◆豊國 企玖乃池奈流 菱之宇礼乎 採跡也妹之 御袖所沾計武
≪書き下し≫豊国(とよくに)の企救(きく)の池なる菱(ひし)の末(うれ)を摘むとや妹がみ袖濡れけむ
この五首の原文を見ていても、人麻呂歌集の「略体」書記や「豊國」と「豊洲」、「聞」と「企救」、「之」と「乃」などが見えて来る。
万葉集の歌そのものだけでなく、用字法、音韻等々様々な研究がなされており、それだけ万葉集の奥深さを物語っている。
時と風の博物館「万葉の庭:勝山公園(文学碑・巨岩碑)に書かれている「巨大な自然石に刻んだ最大50トンと言われる本碑6石と現代語読みの副碑6石、および建設趣旨説明碑1石」の圧巻の万葉歌碑群、勝山公園そして小倉城ともおさらばし、次なる目的地である夜宮公園に向かったのである。
(参考文献)
★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)
★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」
★「万葉の庭:勝山公園(文学碑・巨岩碑)」 (時と風の博物館HP)