万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その2216)―福井県越前市丹生郷町 丹生郷町プチパーク―万葉集 巻十九 四一七八

●歌は、「我のみし聞けば寂しもほととぎす丹生の山辺にい行き鳴かにも」である。

福井県越前市丹生郷町 丹生郷町プチパーク万葉歌碑(大伴家持) 20220607撮影

●歌碑は、福井県越前市丹生郷町 丹生郷町プチパークにある。

 

●歌をみていこう。

 

 四一七七から四一八三歌までの総題は、「四月三日贈越前判官大伴宿祢池主霍公鳥歌<四月の三日に、越前(こしのみちのくち)の判官(じよう)大伴宿禰池主に贈る霍公鳥(ほととぎす)の歌」である。

 

 四一七七から四一七九歌の題詞は、「不勝感舊之意述懐一首 幷短歌」不勝感旧(かんきう)の意(こころ)に勝(あ)へずして懐(おもひ)を述ぶる一首 幷(あは)せて短歌>である。

(注)感旧:池主越中掾時代に行いを共にしたことへの思い。(伊藤脚注)

 

◆吾耳 聞婆不怜毛 霍公鳥 丹生之山邊尓 伊去鳴尓毛

       (大伴家持 巻十九 四一七八)

 

≪書き下し≫我れのみ聞けば寂(さぶ)しもほととぎす丹生(にふ)の山辺(やまへ)にい行き鳴かにも

 

(訳)私ひとりだけで聞くのはさびしくてやりきれない。時鳥よ、君のいる丹生の山辺に行って鳴いておくれでないか。(伊藤 博 著 「万葉集 四」 角川ソフィア文庫より)

(注)丹生の山:越前国府の在った福井県越前市西方の山。(伊藤脚注)

(注)い行き鳴かにも:行って鳴いておくれ。イは接頭語。ニモは希求の助詞。(伊藤脚注)

(注の注)丹生の山:犬養 孝 著 「万葉の旅 下 山陽・四国・九州・山陰・北陸」(平凡社ライブラリー)によると、「武生市(旧国府)西方、市内大虫(おおむし)の丹生嶽のこと。」と書かれている。※武生市は現越前市

 地図にある「鬼が岳」を調べてみると、山の関係や地元発信記事には「かつては丹生ヶ岳とも呼ばれていた山」との記載があった。

 

 

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感想(1件)


 長歌(四一七七歌)をみてみよう。

 

◆和我勢故等 手携而 暁来者 出立向 暮去者 授放見都追 念暢 見奈疑之山尓 八峯尓波 霞多奈婢伎 谿敝尓波 海石榴花咲 宇良悲 春之過者 霍公鳥 伊也之伎喧奴 獨耳 聞婆不怜毛 君与吾 隔而戀流 利波山 飛超去而 明立者 松之狭枝尓 暮去者 向月而 菖蒲 玉貫麻泥尓 鳴等余米 安寐不令宿 君乎奈夜麻勢

       (大伴家持 巻十九 四一七七)

 

≪書き下し≫我が背子(せこ)と 手携(てたづさ)はりて 明けくれば 出で立ち向ひ 夕されば 振り放(さ)け見つつ 思ひ延(の)べ 見なぎし山に 八(や)つ峰(を)には 霞(かすみ)たなびき 谷辺(たにへ)には 椿(つばき)花咲き うら悲(がな)し 春し過ぐれば ほととぎす いやしき鳴きぬ ひとりのみ 聞けば寂(さぶ)しも 君と我(あ)れと 隔(へだ)てて恋ふる 礪波山(となみやま) 飛び越え行きて 明け立たば 松のさ枝(えだ)に 夕さらば 月に向ひて あやめぐさ 玉貫(ぬ)くまでに 鳴き響(とよ)め 安寐寝(やすいね)しめず 君を悩ませ

 

(訳)いとしいあなたと手を取り合って、夜が明けると外に出で立って面(めん)と向かい、夕方になると遠く振り仰ぎ見ながら、気を晴らし慰めていた山、その山に、峰々には霞がたなびき、谷辺には椿の花が咲き、そして物悲しい春の季節が過ぎると、時鳥がしきりに鳴くようになりました。しかし、たったひとりで聞くのはさびしくてならない。時鳥よ、君と私とのあいだをおし隔てて恋しがらせている、あの礪波山を飛び越えて行って、夜が明けそめたなら庭の松のさ枝に止まり、夕方になったら月に立ち向かって、菖蒲を薬玉(くすだま)に通す五月になるまで、鳴き立てて、安らかな眠りにつかせないようにして、君を悩ませるがよい。(同上)

(注)なぐ【和ぐ】自動詞:①心が穏やかになる。なごむ。②風がやみ海が静まる。波が穏やかになる。(学研)ここでは①の意

(注の注)見なぎし山:見ては心を慰めた山。二上山。(伊藤脚注)

(注)うらがなし【うら悲し】形容詞:何とはなしに悲しい。もの悲しい。 ※「うら」心の意。(学研)

(注)やすい【安寝・安眠】名詞:安らかに眠ること。安眠(あんみん)。 ※「い」は眠りの意。(学研)

 

 

 四一七九歌をみてみよう。

 

◆霍公鳥 夜喧乎為管 和我世兒乎 安宿勿令寐 由米情在

       (大伴家持 巻十九 四一七九)

 

≪書き下し≫ほととぎす夜鳴きをしつつ我が背子(せこ)を安寐(やすい)な寝(ね)しめゆめ心あれ

 

(訳)時鳥よ、夜鳴きをし続けて、我がいとしき人に安眠などさせてくれるなよ。我が意を体してゆめ怠るなかれ。(同上)

(注)ゆめ【努・勤】副詞:①〔下に禁止・命令表現を伴って〕決して。必ず。②〔下に打消の語を伴って〕まったく。少しも。(学研)

(注)心あれ:この心をわかっておくれの意。(伊藤脚注)

 

 四一七七ならびに四一七九歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1686)」で紹介している。

 ➡ 

tom101010.hatenablog.com

 

 



※2022年6月9日に越前市万葉ロマンの道の道標灯篭の写真を撮りに行った時、ここを訪れたのであるが、紹介し忘れていたので、あらためて紹介するものである。

 

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 四」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉の旅 下 山陽・四国・九州・山陰・北陸」 犬養 孝 著 (平凡社ライブラリー

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」