万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その2227~2229)―名古屋市千種区東山元町 東山動植物園万葉の散歩道―万葉集 巻一 五四、巻十六 三八三〇、巻十六 三八三四

―その2227―

●歌は、「巨勢山のつらつら椿つらつらに見つつ偲はな巨勢の春野を」である。

名古屋市千種区東山元町 東山動植物園万葉の散歩道万葉歌碑(プレート)<坂門人足> 20210216撮影

●歌碑(プレート)は、名古屋市千種区東山元町 東山動植物園万葉の散歩道にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆巨勢山乃 列ゝ椿 都良ゝゝ尓 見乍思奈 許湍乃春野乎

        (坂門人足 巻一 五四)

 

≪書き下し≫巨勢山(こせやま)のつらつら椿(つばき)つらつらに見つつ偲はな巨勢の春野を

 

(訳)巨勢山のつらつら椿、この椿の木をつらつら見ながら偲ぼうではないか。椿花咲く巨勢の春野の、そのありさまを。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

(注)こせやま【巨勢山】:奈良県西部、御所(ごせ)市古瀬付近にある山。(コトバンク 小学館デジタル大辞泉

(注)つらつらつばき 【列列椿】名詞:数多く並んで咲いているつばき。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

(注)しのぶ 【偲ぶ】:①めでる。賞美する。②思い出す。思い起こす。思い慕う。(学研)

(注の注)しのぶ:ここは眼前の物を通して眼前にない物を偲ぶ意。(伊藤脚注)

 

 題詞は、「大寳元年辛丑秋九月太上天皇幸于紀伊國時歌」<大宝(だいほう)元年辛丑(かのとうし)の秋の九月に、太上天皇(おほきすめらみこと)、紀伊の国(きのくに)に幸(いでま)す時の歌>である。

(注)大宝元年:701年

(注)太上天皇:持統上皇

 

 左注は「右一首坂門人足」<右の一首は坂門人足(さかとのひとたり)>である。

 

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感想(1件)

 この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その223改)」で、とこの元歌となったといわれている春日蔵首老の歌とともに椿の歌9首を紹介している。

題詞にあるように、「秋九月」であるから、椿は咲いていない。「巨勢の春野」はここなのだと、「偲はな」と、リズミカルに、春日蔵首老の歌を踏まえて、詠っているのである。

 ➡ こちら223改

 

 

 2020年2月26日に、巨勢山の阿吽寺に五四歌の歌碑を訪ねて行ったのである。このことについては、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その441)」で紹介している。

 ➡ こちら441

 

 



 

―その2228―

●歌は、「玉掃刈り来鎌麻呂むろの木と棗が本とかき掃かむため」である。

名古屋市千種区東山元町 東山動植物園万葉の散歩道万葉歌碑(プレート)
<長忌寸意吉麻呂> 20210216撮影

●歌碑(プレート)は、名古屋市千種区東山元町 東山動植物園万葉の散歩道にある。

歌をみていこう。

 

●題詞は、「詠玉掃鎌天木香棗歌」<玉掃(たまばはき)、鎌(かま)、天木香(むろ)、棗(なつめ)を詠む歌>である。この互いに無関係の四つのものを、ある関連をつけて即座に歌うのが条件であった。

 

◆玉掃 苅来鎌麻呂 室乃樹 與棗本 可吉将掃為

        (長忌寸意吉麻呂  巻一六  三八三〇)

 

≪書き下し≫玉掃(たまはばき) 刈(か)り来(こ)鎌麿(かままろ)むろの木と棗(なつめ)が本(もと)とかき掃(は)かむため

 

(訳)箒にする玉掃(たまばはき)を刈って来い、鎌麻呂よ。むろの木と棗の木の根本を掃除するために。(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)

(注)玉掃:メドハギ、ホウキグサなどの説があるが、今日ではコウヤボウキ(高野箒)とするのが定説である。現在でも正倉院に「目利箒(めききのはふき)」として残されているが、これがコウヤボウキで作られていたことが分かった。しかしコウヤボウキの名は後世高野山で竹を植えられなかったことから、これで箒を作ったことに由来するといわれているから、あるいは別の名があったかもしれない。(「植物で見る万葉の世界」 國學院大學「万葉の花の会」発行)

 

 

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感想(1件)

 この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その2027)」で「玉掃」とともに紹介している。

 ➡ こちら2017

 

 

子日目利箒(正倉院模造) 東京国立博物館 画像検索より引用させていただきました。

 

 

 

―その2229―

●歌は、「梨棗黍に粟つぎ延ふ葛の後も逢はむと葵花咲く」である。

名古屋市千種区東山元町 東山動植物園万葉の散歩道万葉歌碑(プレート)<作者未詳> 20210216撮影

●歌碑(プレート)は、名古屋市千種区東山元町 東山動植物園万葉の散歩道にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆成棗 寸三二粟嗣 延田葛乃 後毛将相跡 葵花咲

         (作者未詳 巻十六 三八三四)

 

≪書き下し≫梨(なし)棗(なつめ)黍(きみ)に粟(あは)つぎ延(は)ふ葛(くず)の後(のち)も逢(あ)はむと葵(あふひ)花咲く

 

(訳)梨、棗、黍(きび)、それに粟(あわ)と次々に実っても、早々に離れた君と今は逢えないけれど、延び続ける葛のようにのちにでも逢うことができようと、葵(逢ふ日)の花が咲いている。(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)

(注)はふくずの「延(は)ふ葛(くず)の」枕詞:延びていく葛が今は別れていても先で逢うことがあるように、の意で「後も逢はむ」の枕詞になっている。

 

宴席の戯れ歌、物名歌である。

この歌には、植物が六種類、詠まれている。梨(なし)・棗(なつめ)・黍(きみ)・粟(あは)・葛(くず)・葵(あふひ)である。

この六種類の植物が万葉集では何首位収録されているかみてみよう。

この歌のみに歌われている植物は、「黍」と「葵」である。

「梨」は三首、棗は二首、粟は五首、葛は二十首が収録されている。それぞれの歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1138)」で紹介している

➡ こちら1138

 

 

 東山動植物園園内マップ

https://www.higashiyama.city.nagoya.jp/maps/

 

 

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 一」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集 三」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「植物で見る万葉の世界」 (國學院大學「万葉の花の会」発行)

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「コトバンク 小学館デジタル大辞泉

★「東京国立博物館 画像検索」