万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その2201)―愛知県(3)春日井市<1>―

春日井市1⃣>

 春日井市の「万葉の小道」は、春日井市の中心を流れる八田川沿いにある散策路である。「ふれあい緑道」として整備され、特に石塚橋(東野町)付近は「万葉の小道」と名付けられている。小道には、万葉歌碑が15基立てられている。

 

小道の歌碑を追ってみよう。

 

■愛知県春日井市東野町 万葉の小道万葉歌碑<巻十七 三九一六>■

愛知県春日井市東野町 万葉の小道万葉歌碑<大伴家持> 20210414撮影     

●歌をみていこう。

 

◆橘乃 尓保敝流香可聞 保登等藝須 奈久欲乃雨尓 宇都路比奴良牟

        (大伴家持 巻十七 三九一六)

 

≪書き下し≫橘(たちばな)のにほへる香(か)かもほととぎす鳴く夜(よ)の雨にうつろひぬらむ

 

(訳)橘の今を盛りと咲きにおう香り、あの香りは、時鳥の鳴くこの夜の雨で、もう消え失せてしまっていることであろうか。(伊藤 博 著 「万葉集 四」 角川ソフィア文庫より)

(注)かも 係助詞:《接続》体言や活用語の連体形などに付く。〔疑問〕…か(なあ)。…なのか。 ⇒ 語法 「かも」を受ける文末の活用語は連体形になる。 ⇒参考:係助詞「か」に係助詞「も」が付いて一語化したもの。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

(注)うつろふ【移ろふ】自動詞:①移動する。移り住む。②(色が)あせる。さめる。なくなる。③色づく。紅葉する。④(葉・花などが)散る。⑤心変わりする。心移りする。⑥顔色が変わる。青ざめる。⑦変わってゆく。変わり果てる。衰える。 ※「移る」の未然形+反復継続の助動詞「ふ」からなる「移らふ」が変化した語。(学研)

 

 


 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1004)」で紹介している。

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■愛知県春日井市東野町 万葉の小道万葉歌碑<巻二十 四四四八> ■

愛知県春日井市東野町 万葉の小道万葉歌碑<橘諸兄> 20210414撮影

●歌をみていこう。

 

◆安治佐為能 夜敝佐久其等久 夜都与尓乎 伊麻世和我勢故 美都ゝ思努波牟

         (橘諸兄 巻二十 四四四八)

 

≪書き下し≫あぢさいの八重(やへ)咲くごとく八(や)つ代(よ)にをいませ我が背子(せこ)見つつ偲ばむ

 

(訳)あじさいが次々と色どりを変えてま新しく咲くように、幾年月ののちまでもお元気でいらっしゃい、あなた。あじさいをみるたびにあなたをお偲びしましょう。(伊藤 博 著 「万葉集 四」 角川ソフィア文庫より)

(注)八重(やへ)咲く:次々と色どりを変えてま新しそうに咲くように。あじさいは色の変わるごとに新しい花が咲くような印象を与える。(伊藤脚注)

(注)八(や)つ代(よ):幾久しく。「八重」を承けて「八つ代」といったもの。(伊藤脚注)

(注)います【坐す・在す】[一]自動詞:①いらっしゃる。おいでになる。▽「あり」の尊敬語。②おでかけになる。おいでになる。▽「行く」「来(く)」の尊敬語。(学研)        

 

 左注は、「右一首左大臣寄味狭藍花詠也」≪右の一首は、左大臣、味狭藍(あじさゐ)の花に寄せて詠(よ)む。>である。

 



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■愛知県春日井市東野町 万葉の小道万葉歌碑<巻十九  四一三九>■

愛知県春日井市東野町 万葉の小道万葉歌碑<大伴家持> 20210414撮影

●歌をみていこう。

 

◆春苑 紅尓保布 桃花 下照道尓 出立▼嬬

        (大伴家持 巻十九  四一三九)

     ※▼は、「女」+「感」、「『女』+『感』+嬬」=「をとめ」

 

≪書き下し≫春の園(その)紅(くれなゐ)にほふ桃の花下照(したで)る道に出で立つ娘子(をとめ)

 

(訳)春の園、園一面に紅く照り映えている桃の花、この花の樹の下まで照り輝く道に、つと出で立つ娘子(おとめ)よ。(伊藤 博 著 「万葉集 四」 角川ソフィア文庫より)

 

 


 四四四八歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1005)」で、四一三九歌ならびに歌碑については、同「同(その1006)」で紹介している。

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■愛知県春日井市東野町 万葉の小道万葉歌碑<巻九 一六九四>■

愛知県春日井市東野町 万葉の小道万葉歌碑<柿本人麻呂歌集> 20210414撮影

●歌をみていこう。

 

◆細比礼乃 鷺坂山 白管自 吾尓尼保波尼 妹尓示

      (柿本人麻呂歌集 巻九 一六九四)

 

≪書き下し≫栲領布(たくひれ)の鷺坂山の白(しら)つつじ我(わ)れににほはに妹(いも)に示(しめ)さむ

 

(訳)栲領布(たくひれ)のように白い鳥、鷺の名の鷺坂山の白つつじの花よ、お前の汚れのない色を私に染め付けておくれ。帰ってあの子の見せてやろう。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)たくひれ【栲領巾】〘名〙 :楮(こうぞ)などの繊維で織った栲布(たくぬの)で作った領巾(ひれ)。女子の肩にかける飾り布。

(注)たくひれの【栲領巾の】( 枕詞 ):① 栲領巾をかけることから、「かけ」にかかる。② 栲領巾の白いことから、「白」または地名「鷺坂さぎさか山」にかかる。(コトバンク 三省堂大辞林 第三版)

(注)領布(ひれ): 古代の服飾具の一。女性が首から肩にかけ、左右に垂らして飾りとした布帛(ふはく)。(コトバンク 小学館デジタル大辞泉

(注)にほふ【匂ふ】自動詞:美しく染まる。(草木などの色に)染まる。(学研)

 

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 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1007)」で紹介している。

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■愛知県春日井市東野町 万葉の小道万葉歌碑<巻一 五四>■

愛知県春日井市東野町 万葉の小道万葉歌碑<坂門人足> 20210414撮影

●歌をみていこう。

 

◆巨勢山乃 列ゝ椿 都良ゝゝ尓 見乍思奈 許湍乃春野乎

         (坂門人足 巻一 五四)

 

≪書き下し≫巨勢山(こせやま)のつらつら椿(つばき)つらつらに見つつ偲はな巨勢の春野を

 

(訳)巨勢山のつらつら椿、この椿の木をつらつら見ながら偲ぼうではないか。椿花咲く巨勢の春野の、そのありさまを。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

(注)こせやま【巨勢山】:奈良県西部、御所(ごせ)市古瀬付近にある山。(コトバンク 小学館デジタル大辞泉

(注)つらつらつばき 【列列椿】名詞:数多く並んで咲いているつばき。

(注)しのぶ 【偲ぶ】:①めでる。賞美する。②思い出す。思い起こす。思い慕う。

 

 題詞は、「大寳元年辛丑秋九月太上天皇幸于紀伊國時歌」<大宝(だいほう)元年辛丑(かのとうし)の秋の九月に、太上天皇(おほきすめらみこと)、紀伊の国(きのくに)に幸(いでま)す時の歌>である。

(注)太上天皇:持統上皇

 

 左注は「右一首坂門人足」<右の一首は坂門人足(さかとのひとたり)>である。

 

 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1008)」で紹介している。

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■愛知県春日井市東野町 万葉の小道万葉歌碑<巻八 八一八>■

愛知県春日井市東野町 万葉の小道万葉歌碑<山上憶良> 20210414撮影

●歌をみていこう。

 

◆波流佐礼婆 麻豆佐久耶登能 烏梅能波奈 比等利美都々夜 波流比久良佐武  [筑前守山上大夫]

         (山上憶良 巻八 八一八)

 

≪書き下し≫春さればまづ咲くやどの梅の花ひとり見つつや春日(はるひ)暮らさむ [筑前守(つくしのみちのくちのかみ)山上大夫(やまのうへのまへつきみ)]

 

(訳)春が来るとまっ先に咲く庭前の梅の花、この花を、ただひとり見ながら長い春の一日を暮らすことであろうか。(「万葉集 一」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫

 

 「梅花の歌三十二首」の一首である。

 

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 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1009)」で紹介している。

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■愛知県春日井市東野町 万葉の小道万葉歌碑<巻二〇 四一四〇>■

愛知県春日井市東野町 万葉の小道万葉歌碑<大伴家持> 20210414撮影

●歌をみていこう。

 

◆吾園之 李花可 庭尓落 波太礼能未 遣在可母

        (大伴家持 巻二〇 四一四〇)

 

≪書き下し≫我(わ)が園の李(すもも)の花か庭に散るはだれのいまだ残りてあるかも

 

(訳)我が園の李(すもも)の花なのであろうか、庭に散り敷いているのは。それとも、はだれのはらはら雪が残っているのであろうか。(伊藤 博 著 「万葉集 四」 角川ソフィア文庫より)

(注)はだれ【斑】名詞:「斑雪(はだれゆき)」の略。(学研)

(注の注)はだれゆき【斑雪】名詞:はらはらとまばらに降る雪。また、薄くまだらに降り積もった雪。「はだれ」「はだらゆき」とも。(学研)

 

 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1010)」で紹介している

 ➡ こちら1010

 

 


■愛知県春日井市東野町 万葉の小道万葉歌碑<巻二〇 四五一二>■

 

 

愛知県春日井市東野町 万葉の小道万葉歌碑<大伴家持> 20210414撮影

●歌をみていこう。

 

◆伊氣美豆尓 可氣佐倍見要氐 佐伎尓保布 安之婢乃波奈乎 蘇弖尓古伎礼奈

        (大伴家持 巻二〇 四五一二)

 

≪書き下し≫池水(いけみづ)に影さえ見えて咲きにほふ馬酔木(あしび)の花を袖(そで)に扱(こき)いれな

 

(訳)お池の水の面に影までくっきり映しながら咲きほこっている馬酔木の花、ああ、このかわいい花をしごいて、袖の中にとりこもうではないか。(伊藤 博 著 「万葉集 四」 角川ソフィア文庫より)

(注)こきいる【扱き入る】他動詞:しごいて取る。(学研)

 

 

 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1011)」で紹介している。

 ➡ こちら1011

 

 



「万葉の小道」歌碑案内図 20210414撮影

 

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 一」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集 四」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「コトバンク 三省堂大辞林 第三版」

★「コトバンク 小学館デジタル大辞泉

★「春日井市HP」