万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その2204)―愛知県(4)豊明市<2>―

豊明市2⃣>

■愛知県豊明市新栄町 大蔵池公園万葉の森万葉歌碑<巻九 一六九四>■

愛知県豊明市新栄町 大蔵池公園万葉の森万葉歌碑<柿本人麻呂歌集>
 20210214撮影

●歌をみていこう。

 

◆細比礼乃 鷺坂山 白管自 吾尓尼保波尼 妹尓示

      (柿本人麻呂歌集 巻九 一六九四)

 

≪書き下し≫栲領布(たくひれ)の鷺坂山の白(しら)つつじ我(わ)れににほはに妹(いも)に示(しめ)さむ

 

(訳)栲領布(たくひれ)のように白い鳥、鷺の名の鷺坂山の白つつじの花よ、お前の汚れのない色を私に染め付けておくれ。帰ってあの子の見せてやろう。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)たくひれ【栲領巾】〘名〙 :楮(こうぞ)などの繊維で織った栲布(たくぬの)で作った領巾(ひれ)。女子の肩にかける飾り布。

(注)たくひれの【栲領巾の】( 枕詞 ):① 栲領巾をかけることから、「かけ」にかかる。② 栲領巾の白いことから、「白」または地名「鷺坂(さぎさか)山」にかかる。(コトバンク 三省堂大辞林 第三版)

(注)領布(ひれ): 古代の服飾具の一。女性が首から肩にかけ、左右に垂らして飾りとした布帛(ふはく)。(コトバンク 小学館デジタル大辞泉

(注)にほふ【匂ふ】自動詞:①美しく咲いている。美しく映える。②美しく染まる。(草木などの色に)染まる。③快く香る。香が漂う。④美しさがあふれている。美しさが輝いている。⑤恩を受ける。おかげをこうむる。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)ここでは②の意

 

 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1025)」で紹介している。天領巾、栲領巾、蜻蛉領巾などにもふれている。

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■愛知県豊明市新栄町 大蔵池公園万葉の森万葉歌碑<巻十 一九〇三>■

愛知県豊明市新栄町 大蔵池公園万葉の森万葉歌碑<作者未詳>
 20210414撮影       

●歌をみていこう。

 

◆吾瀬子尓 吾戀良久者 奥山之 馬酔木花之 今盛有

          (作者未詳 巻十 一九〇三)

 

≪書き下し≫我(わ)が背子(せこ)に我(あ)が恋ふらくは奥山の馬酔木(あしび)の花の今盛(さかり)なり

 

(訳)いとしいあの方に私がひそかに恋い焦がれる思いは、奥山に人知れず咲き栄えている馬酔木の花のように今真っ盛りだ。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)「奥山の馬酔木(あしび)の花の」は序。「盛り」を起こす。(伊藤脚注)

 

 

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 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1026)」で紹介している。

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■愛知県豊明市新栄町 大蔵池公園万葉の森万葉歌碑<巻八 一五三八>■

愛知県豊明市新栄町 大蔵池公園万葉の森万葉歌碑<山上憶良> 20210414撮影

●歌をみていこう。

 

◆芽之花 乎花葛花 瞿麦之花 姫部志 又藤袴 朝▼之花

           (山上憶良 巻八 一五三八)

   ▼は「白」の下に「八」と書く。「朝+『白』の下に『八』」=「朝顔

 

≪書き下し≫萩の花 尾花(をばな) 葛花(くずはな) なでしこの花 をみなへし また藤袴(ふぢはかま) 朝顔の花

 

(訳)一つ萩の花、二つ尾花、三つに葛の花、四つになでしこの花、うんさよう、五つにおみなえし。ほら、それにまだあるぞ、六つ藤袴、七つ朝顔の花。うんさよう、これが秋の七種の花なのさ。(伊藤 博著「萬葉集 二」角川ソフィア文庫より)

 

 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1027)」で紹介している。七種に因んだ歌をそれぞれ紹介している。

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■愛知県豊明市新栄町 大蔵池公園万葉の森万葉歌碑<巻十 二二一〇>■

愛知県豊明市新栄町 大蔵池公園万葉の森万葉歌碑<作者未詳> 20210414撮影

●歌をみてみよう。

 

◆明日香河 黄葉流 葛木 山之木葉者 今之落疑

        (作者未詳 巻十 二二一〇)

 

≪書き下し≫明日香川(あすかがは)黄葉(もみちば)流る葛城(かづらぎ)の山の木(こ)の葉は今し散るらし

 

(訳)明日香川にもみじが流れている。この分では、葛城(かつらぎ)の山の木の葉は、今頃しきりに散っていることであろう。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)明日香川>飛鳥川大阪府):太子町大字山田の神山付近を水源とし、ほぼ全域が国道166号(竹内街道)に沿って北西方向へ流れ、途中の羽曳野市飛鳥では集落の中を国道に張り付くように流れる。羽曳野市川向で石川に合流する。飛鳥川沿岸の地域は通称「河内飛鳥(近つ飛鳥)」とよばれる。(フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』)

 

 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1028)」で紹介している。

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新古今集の巻5、秋歌下に、題しらず柿本人麿として「あすか川 もみじ葉ながる 葛城の 山の秋風 吹きぞしぬらし」が掲載されている。

この歌の元歌が、歌碑の二二一〇歌であるという。

新古今集の歌碑は、羽曳野市駒ヶ谷 飛鳥川にかかる月読橋上流50mのところに建てられている。驚いたことに、この歌碑は、なんと文化二年(1805年)歳次乙丑夏五月に建てられたという。

 これについては、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その月読橋番外編)」で紹介している。

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■愛知県豊明市新栄町 大蔵池公園万葉の森万葉歌碑<巻十 一八七二>■

愛知県豊明市新栄町 大蔵池公園万葉の森万葉歌碑<作者未詳> 20210414撮影

●歌をみていこう。

 

◆見渡者 春日之野邊尓 霞立 開艶者 櫻花鴨

        (作者未詳 巻十 一八七二)

 

≪書き下し≫見わたせば春日(かすが)の野辺(のへ)に霞(かすみ)たち咲きにほえるは桜花かも

 

(訳)遠く見わたすと、春日の野辺の一帯には霞が立ちこめ、花が美しく咲きほこっている、あれは桜花であろうか。(「万葉集 二」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より))

(注)にほふ【匂ふ】自動詞:①美しく咲いている。美しく映える。②美しく染まる。(草木などの色に)染まる。③快く香る。香が漂う。④美しさがあふれている。美しさが輝いている。⑤恩を受ける。おかげをこうむる。(学研)ここでは①の意

 

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 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1029)」で紹介している。

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■愛知県豊明市新栄町 大蔵池公園万葉の森万葉歌碑<巻三 三三〇>■

愛知県豊明市新栄町 大蔵池公園万葉の森万葉歌碑<大伴四綱> 20210414撮影

●歌をみていこう。

 

◆藤浪之 花者盛尓 成来 平城京乎 御念八君

          (大伴四綱 巻三 三三〇)

 

≪書き下し≫藤波(ふぢなみ)の花は盛りになりにけり奈良の都を思ほすや君

 

(訳)ここ大宰府では、藤の花が真っ盛りになりました。奈良の都、あの都を懐かしく思われますか、あなたさまも。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

(注)「思ほすや君」:大伴旅人への問いかけ。(伊藤脚注)

 

この歌の題詞は、「防人司佑大伴四綱歌二首」<防人司佑(さきもりのつかさのすけ)大伴四綱(おほとものよつな)が歌二首>である。

 

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 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1030)」で紹介している。

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この大伴四綱の問いかけに対し、気の許せる仲間うちであるので旅人は三三一から三三五歌で応答しているが、弱弱しいとまで思える本音の気持ちをさらけだしているのである。

 これに対して、大宰帥としての立場を貫き、大宰少貮(だざいのせうに)石川朝臣足人(いしかはのあそみたるひと)の「さす竹の大宮人(おほみやひと)の家と住む佐保(さほ)の山をば思(おも)ふやも君(巻六 九五五)」に対して、「やすみしし我(わ)が大君(おほきみ)の食(を)す国は大和(やまと)もここも同(おな)じとぞ思ふ(巻六 九五六)」と毅然と答えた旅人の姿はここにはない。

 

 この大伴旅人の「本音と建前」的な歌については、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その921)」で紹介している。

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 大蔵池では、「九左山古窯址」と名付けられた窯址が発見されている。ロマン漂う池である。



 

■■東大寺真言院万葉歌碑■■

 朝から奈良市内へ出かける用事があったので、かねてから行きたいと思っていた東大寺真言院に出向いた。 

 転害門近くの駐車場に車を留め戒壇院あたりから真言院に向かう。コロナも一段落、海外からの人たちも多く賑わいを少し取り戻した感がある。

 久しぶりの万葉歌碑とのご対面である。


 

東大寺真言院万葉歌碑(大伴家持 巻十八 四〇九七)

 歌等は後日紹介させていただきます。

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 一」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「コトバンク 小学館デジタル大辞泉

★「フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』」