万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉集の世界に飛び込もう―万葉歌碑を訪ねて(その2391)―

■かしわ■

「万葉植物園 植物ガイド105」(袖ケ浦市郷土博物館発行)より引用させていただきました。

●歌は、「印南野の赤ら柏は時はあれど君を我が思ふ時はさねなし」である。

千葉県袖ケ浦市下新田 袖ヶ浦公園万葉植物園万葉歌碑(プレート)(安宿王)20230926撮影

●歌碑(プレート)は、千葉県袖ケ浦市下新田 袖ヶ浦公園万葉植物園にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆伊奈美野之 安可良我之波ゝ 等伎波安礼騰 伎美乎安我毛布 登伎波佐祢奈之

        (安宿王 巻二十 四三〇一)

 

≪書き下し≫印南野(いなみの)の赤ら柏(がしは)は時はあれど君を我(あ)が思(も)ふ時はさねなし

 

(訳)印南野の赤ら柏は、赤らむ季節が定まっておりますが、大君を思う私の気持ちには、いついつと定まった時など、まったくありません。(同上)

 (注)印南野 分類地名:歌枕(うたまくら)。今の兵庫県加古川市から明石市付近。「否(いな)」と掛け詞(ことば)にしたり、「否」を引き出すため、序詞(じよことば)的な使い方をすることもある。稲日野(いなびの)。(学研)

(注)あからがしは【赤ら柏】①葉が赤みを帯びた柏。供物を盛る具。②《供物を①に盛るところから》京都の北野天満宮の11月1日の祭り。6月には青柏祭がある。(コトバンク デジタル大辞泉

(注)時はあれど:紅葉するのに定まった季節というものがあるけれどの意か。(伊藤脚注)。

(注)さね 副詞:①〔下に打消の語を伴って〕決して。②間違いなく。必ず。(学研)

 

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感想(1件)

 この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1120)」で紹介している。

 ➡ 

tom101010.hatenablog.com

 

 

 

 「あからかしは」について、「植物で見る万葉の世界」(國學院大學「万葉の花の会」発行)に、「『あからかしは』は、集中この1首のみである。今日のカシワから類推しても特定の樹木とは考え難く、赤い状態のかしわの葉ではないかと考えてみた。カシワはイブキ、コナラ等諸説あるが、今ではブナ科カシワ説が妥当とされている。本来炊葉(かしば)の意味で、『食物を盛る葉』の総称。大きくて丈夫な葉は食物を盛り、包むのに、樹皮は染色にと当時は有用な樹木であった。」と書かれている。

 

コトバンク デジタル大辞泉に「あからがしは【赤ら柏】」について、「京都の北野天満宮の11月1日の祭り。6月には青柏祭がある」と書かれていたので、北野天満宮のHPで赤柏祭を検索してみた。

北野の特殊神饌の年間のお祭りの中に「青柏祭」と「赤柏祭」が掲載されていた。

「青柏祭」・「赤柏祭」いずれも「北野天満宮HP」より引用させていただきました。

 

 

 

奈良市神功4丁目の万葉の小径(京都府奈良県の県境沿い)に柏の木が植わっており、柏の葉は、11月には、赤っぽく(?)なって来る。北野天満宮の赤柏祭が11月30日であるので、ほぼこの頃の柏葉を「あからかしわ」というのであろう。



 万葉の小径の「かしわ」の歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その481)」でう紹介している。

 ➡ 

tom101010.hatenablog.com

 

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 四」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉植物園 植物ガイド105」(袖ケ浦市郷土博物館発行)

★「植物で見る万葉の世界」(國學院大學「万葉の花の会」発行)

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「コトバンク デジタル大辞泉

★「北野天満宮HP」