万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉集の世界に飛び込もう―万葉歌碑を訪ねて(その2440)―

■やまつつじ■

「万葉植物園 植物ガイド105」(袖ケ浦市郷土博物館発行)より引用させていただきました。

●歌は、「水伝ふ礒の浦廻の岩つつじ茂く咲く道をまたも見むかも」である。

千葉県袖ケ浦市下新田 袖ヶ浦公園万葉植物園万葉歌碑(プレート)(皇子尊宮舎人等) 20230926撮影

●歌碑(プレート)は、千葉県袖ケ浦市下新田 袖ヶ浦公園万葉植物園にある。  

 

●歌をみていこう。

 

◆水傳 磯乃浦廻乃 石上乍自 木丘開道乎 又将見鴨

       (日並皇子尊宮舎人 巻二 一八五)

 

≪書き下し≫水(みづ)伝(つた)ふ礒(いそ)の浦(うら)みの岩つつじ茂(も)く咲く道をまたも見むかも

 

(訳)水に沿っている石組みの辺の岩つつじ、そのいっぱい咲いている道を再び見ることがあろうか。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

(注)いそ【磯】名詞:①岩。石。②(海・湖・池・川の)水辺の岩石。岩石の多い水辺。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

(注)うらみ【浦廻・浦回】名詞:入り江。海岸の曲がりくねって入り組んだ所。「うらわ」とも。(学研)

(注)茂く>もし【茂し】( 形ク ):草木の多く茂るさま。しげし。(weblio辞書 三省堂大辞林 第三版)

 

 一七一~一九三歌の歌群の題詞は、「皇子尊宮舎人等慟傷作歌廿三首」<皇子尊(みこのみこと)の宮の舎人等(とねりら)、慟傷(かな)しびて作る歌二三首>である。

 

 この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その502)」で「皇子尊宮舎人等慟傷作歌廿三首」と共に紹介している。

 ➡ 

tom101010.hatenablog.com

 

 

 

 ここに詠われている「岩つつじ」とは、といろいろ検索してみてが、「つつじ」というとあまりにもポピュラーなので情報量が多く焦点を絞りこめなかった。ザクっと結論的に言えば、庭園の池の周りの庭石のあたりに栽培されていた「つつじ」ということになろう。

 「つつじ」や「さつき」について考察するのは万葉集とあまりにもかけ離れてしまうので将来の課題とせざるをえない。

 主な情報を列挙してみると次の通りである。

 

 みんなの趣味の園芸NHK出版HP)の「つつじとは」に特徴として次のように書かれている。

「古くから栽培されるツツジは、日本人に最も親しまれている植物の一つといえるでしょう。

ツツジの名は、一般的にはサツキを除く、半常緑性のヤマツツジの仲間(ツツジヤマツツジ節)の総称として使われますが、落葉性のレンゲツツジや常緑性で葉にうろこ状の毛があるヒカゲツツジなどを加えることもあります。

ヤマツツジの仲間は、アジア東部に約90種が分布します。日本には花の美しいヤマツツジやキシツツジモチツツジ、サツキなど17種ほどが自生します。江戸時代中期に、‘本霧島’や‘白琉球’、‘大紫’など現在でも栽培される数多くの園芸品種が作出されました。また、クルメツツジは江戸末期に作出され、明治から大正にかけて多くの品種がつくられています。

栽培されるツツジは、日本に自生する野生種をもとに改良されているので、いずれも栽培は容易です。鉢植えでも庭植えでも楽しむことができます。」

 

鹿児島県鹿児島市「桂花園」HPの「岩つつじ」に関して次の記述が掲載されている。

「岩ツツジの正式名称はハヤトミツバツツジといい、鹿児島県の固有種で希少野生動植物に指定されていますので、野山に自生している株を移植することは禁止されています。

当園に多く自生しているミツバツツジとの違いは、岩ツツジの方が開花時期が2週間ほど早いことと、ミツバツツジの花の色は赤ですが、岩ツツジは薄いピンク色で岩ツツジの方が鮮やかです。

それと、岩ツツジは葉っぱより先に花が咲きますが、ミツバツツジは新芽が出た後に開花します。」

 

コトバンク 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)」の「ツツジの文化史」に、「ツツジの名は、『出雲国風土記(いずものくにふどき)』(733)に、大原郡の山野に生える植物として茵芊が初見し、万葉集』では、茵花、都追茲花、白管仕、白管自、丹管士、石管士の名で9首詠まれている。2巻に「水伝(みなつた)ふ磯(いそ)の浦廻(うらみ)の石管士(いわつつじ)茂(も)く咲く道をまた見なむかも」と歌われているが、この磯の浦廻は、天武(てんむ)天皇と持統(じとう)天皇の子、日並知(ひなめし)(草壁(くさかべ))皇子の宮殿の庭園にあり、すでにツツジが栽培下にあったことが知られる。ツツジの品種は江戸時代に爆発的に増え、水野元勝は『花壇綱目』で147品種を取り上げた。それにはサツキの名はないが、三之丞(さんのじょう)(伊藤伊兵衛)は『錦繍枕(きんしゅうまくら)』で、ツツジを173、サツキを162品種解説した。そのサツキのうち、「せい白く」など9品種は『花壇綱目』のなかに名がみえる。『錦繍枕』でサツキの3名花とされたうち、『まつしま』『さつまくれない』をはじめ、『ざい』『みねの雪』『高砂(たかさご)』など現在にも若干の品種は伝えられているが、大半は消失した。明治の末ごろからふたたびサツキを中心とするツツジが流行し、現代に続く。海外では19世紀以降、アザレアの改良が進み、クルメツツジレンゲツツジ、タイワンヤマツツジなどが関与した。」(注:アンダーラインは追記したもの)

 

 

 

 万葉歌碑巡りのドライブ時に山裾の雑木林のなかにピンク色の花を咲かせる「つつじ」が点在して目を奪われる。

 庭にインパクトを付けたいと、通販で「イワツツジ」と称するものを買って植えている。今はこれを「イワツツジ」として楽しんでいこう。花は赤っぽいピンク色。今は、落葉している。



 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 一」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「植物で見る万葉の世界」(國學院大學「万葉の花の会」発行)

★「万葉植物園 植物ガイド105」(袖ケ浦市郷土博物館発行)

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「weblio辞書 三省堂大辞林 第三版」

★「コトバンク 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)」

★「桂花園HP」

★「みんなの趣味の園芸」 (NHK出版HP)