万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その17改)―奈良市古i市町 和楽園―万葉集 巻八 一四二四

●歌は、「春の野にすみれ摘みにと来し我れぞ野をなつかしみ一夜寝にける」である。 

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古市町和楽園万葉歌碑 (山部赤人

●歌碑は、奈良市古i市町 和楽園入口にある。

●歌をみていこう。

 

◆春野尓 須美礼採尓等 來師吾曽 野乎奈都可之美 一夜宿二来

      (山部赤人 巻八 一四二四)

 

≪書き下し≫春の野にすみれ摘(つ)みにと来(こ)し我れぞ野をなつかしみ一夜(ひとよ)寝(ね)にける

 

(訳)春の野に、すみれを摘もうと思ってやってきた私は、その野の美しさに心引かれて、つい一夜を明かしてしまった。(「万葉集 二」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)

(注)なつかし【懐かし】形容詞:①心が引かれる。親しみが持てる。好ましい。なじみやすい。②思い出に心引かれる。昔が思い出されて慕わしい。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

 部立は、春雑歌であり、題詞は、「山部宿祢赤人歌四首」<山部宿禰赤人が歌四首>である。他の三首もみてみよう。

 

◆足比奇乃 山櫻花 日並而 如是開有者 甚戀目夜裳 

     (山部赤人 巻八 一四二五)

 

≪書き下し≫あしひきの山桜花(やまさくらばな)日(ひ)並(なら)べてかく咲きたらばいたく恋ひめやも

 

(訳)山桜の花、この花が、幾日もずっとこのように咲いているのなら、こうもひどく心引かれることなどあろうか。(同上)

(注)いたく【甚く】副詞:はなはだしく。ひどく。(学研)

 

◆吾勢子尓 令見常念之 梅花 其十方不所見 雪乃零有者

      (山部赤人 巻八 一四二六)

 

≪書き下し≫我が背子(せこ)に見せむと思ひし梅の花それとも見えず雪の降れれば

 

(訳)あの方にお見せしようと思っていた梅の花、どれがそれとも見分けがつかない。雪が枝に降り積もっているので。(同上)

 

 

◆従明日者 春菜将採跡 標之野尓 昨日毛今日毛 雪波布利管

        (山部赤人 巻八 一四二七)

 

≪書き下し≫明日(あす)よりは春菜(はるな)摘むむと標(し)めし野に昨日(きのふ)も今日(けふ)も雪は降りつつ

 

(訳)明日から春の若菜を摘もうと標縄(しめなわ)を張りめぐらしておいた野に、昨日も今日も雪は降りつづいていて・・・・・・。(同上)

 

 山部赤人について、犬養 孝氏は「万葉人びと」(新潮文庫)の中で、「『万葉集』に四十九首の歌があるんですが、この人は今日の言葉でいえば最も創作意識の旺盛な人と言えるでしょう。美の創作意識といったらいいかもしれません。しかも、自然にぶつかった時に情熱を感じる。」と述べておられる。さらに、他の歌についても、「自然の奥底に入っていくような、自然の声に、じっと耳を傾けているような歌」と評されている。

 この歌碑の歌も続く三首も「きれいな」歌だなあと思ってしまう。中西 進氏も「万葉の心」(毎日新聞社)の中で「赤人は『なつかし』さのゆえに野に一夜をあかす。これが万葉びとの詩の在り方」と述べておられる。

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「「万葉集 二」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より」

★「万葉の人びと」犬養 孝 著 (新潮文庫

★「万葉の心」中西 進 著 (毎日新聞社

 

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