万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その65改)―奈良県桜井市桧原井寺池畔―万葉集 巻十三 三二二二

奈良県桜井市桧原井寺池畔には、柿本人麻呂2つ、天智天皇、作者未詳の計4つの万葉歌碑がある。古事記の倭建命の歌碑もある。今日は作者未詳の歌碑の紹介である。

 

●万葉歌碑を訪ねて―その65―

 「三諸は人の守る山本辺はあしび花咲き未辺は椿花咲くうらぐはし山ぞ泣く児守る山」

 

この歌碑は、奈良県桜井市桧原井寺池畔にある。

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奈良県桜井市井寺池畔万葉歌碑(作者未詳)

 井寺池を上池と下池の仕切る堤を渡り切った上池側にひっそりと建てられている。ほぼ、天智天皇の歌碑の反対側になる。

 

歌をみていこう。

◆三諸者 人之守山 本邊者 馬酔木花開 末邊方 椿花開 浦妙 山曽 泣兒守山

                 (作者未詳 巻十三 三二二二)

 

≪書き下し≫みもろは 人の守(も)る山 本辺(もとへ)は 馬酔木花咲く 末辺(すゑへ)は 椿花咲く うらぐわし 山ぞ 泣く児守る山

(訳)みもろの山は、人が大切に守っている山だ。麓のあたりには、一面に馬酔木の花が咲き、頂のあたりには、一面に椿の花が咲く。まことにあらたかな山だ。泣く子さながらに人がいたわり守る、この山は。

(注)みもろ【御諸・三諸・御室】:神が降臨して宿る神聖な所。磐座(いわくら)(=神野語座所)のある山や、森・岩窟(がんくつ)など、特に、「三輪山(みわやま)にいうこともある。また、神坐や神社。「みむろ」とも。

(注)うらぐはし【うら細し・うら麗し】:心にしみて美しい。見ていて気持ちが良い。

すばらしく美しい。

(注)山の末(やまのすゑ):山の頂。また、山の奥。(コトバンク「精選版日本国語大辞典」)

 

 中西 進氏は「万葉の心」(毎日新聞社)のなかで、「そもそも『大和』という宛て字は平和をたたえた文字で、『やまと』ということばは、「山処(やまと)」つまり山のあるところという意味である。」(中略)「このことばは、広く野や海を知っている人間の名づけたものであるにちがいない。(彼ら)から見れば、まさに「大和」は「山処」であった。」と述べておられる。

 さらに「『万葉集』に大和の歌の多いことは、勢い、山の文学が多いことになろう。そして大和賛美は、山への賛美を不可欠にしていることにもなろう。」神が山に降臨すると信じられていたことなども考えあわせると、山々は、万葉びとにとって、まず聖なるものであったに違いない。この歌に関して同氏は、「三輪山の歌であろうが、この尊敬や信愛に、彼らの山への情熱は残りなく表れていると思われる。」と述べておられる。

 三輪山は、「神名備山」とも「三諸山」とも呼ばれた。神名備は「神な辺」であり、神の宿るところ、三諸は「御室」でやはり神の籠るるところを意味している。

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 三」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉の心」 中西 進 著 (毎日新聞社

★「別冊國文學 万葉集必携」 稲岡耕二 編 (學燈社

★「コトバンク:精選版日本国語大辞典

★「weblio古語辞書」

★「万葉歌碑めぐり」(桜井市HP)

 

※20231231朝食記事削除 一部改訂