万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その150改)―奈良県高市郡明日香村 万葉文化館(4)―

●歌は、「皆人の 命もわれも み吉野の滝の常磐の 常ならぬかも」である。

 

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万葉文化館庭園万葉歌碑(4)(笠 金村)

●歌碑は、奈良県高市郡明日香村 万葉文化館にある。文化館4つ目の歌碑である。

 

●歌をみていこう。

 

◆人皆之 壽毛吾母 三吉野乃 多吉能床磐乃 常有沼鴨

                  (笠金村    巻六 九二二)

 

≪書き下し≫皆人(みなびと)の命(いのち)も我(わ)がもみ吉野の滝の常盤(ときわ)の常(つね)ならぬかも

 

(訳)皆々方の命も、われらの命も、ここみ吉野の滝の常盤(ときわ)のように永久に不変であってくれないものか。(伊藤 博 著 「万葉集二」角川ソフィア文庫より)

(注)皆人:作者よりも上級の官人を意識している

 

 この歌は、題詞「神龜二年乙丑夏五月幸于芳野離宮時笠朝臣金村作歌一首幷短歌」<神龜(じんぎ)二年乙丑(きのとうし)の夏の五月に、吉野の離宮(とつみや)に幸(いでま)す時に、笠朝臣金村が作る歌一首 幷(あは)せて短歌>とある、長歌反歌二首の一首である。聖武天皇行幸に随伴した時の歌である。

 長歌ならびに他の反歌もみていこう。

 

◆足引之 御山毛清 落多藝都 芳野河之 河瀬乃 浄乎見者 上邊者 千鳥數鳴 下邊者 河津都麻喚 百礒城乃 大宮人毛 越乞尓 思自仁思有者 毎見 文丹乏 玉葛 絶事無 萬代尓 如是霜願跡 天地之 神乎曽禱 恐有等毛

                 (笠金村 巻六 九二〇)

 

≪書き下し≫あしひきの み山もさやに 落ちたぎつ 吉野の川の 川の瀬の 清きを見れば 上辺(かみへ)には 千鳥しば鳴く 下辺(しもへ)には かはづ妻呼ぶ ももしきの 大宮人も をちこちに 繁(しげ)にしあれば 見るごとに あやにともしみ 玉葛(たまかづら) 絶ゆることなく 万代(よろづよ)に かくしもがもと 天地(あめつち)の 神をぞ祈る 畏(かしこ)くあれども

 

(訳)在り巡るみ山もすがすがしく渦巻き流れる吉野の川、この川の瀬の清らかなありさまを見ると、上流では千鳥がしきりに鳴くし、下流では河鹿が妻を呼んで盛んに鳴く。その上、大君にお仕えする大宮人も、あちこちいっぱい行き来しているので、ここみ吉野のさまを見るたびにただむしょうにすばらしく思われて、玉葛(たまかずら)のように絶えることなく、万代(よろずよ)までもこのようにあってほしいものだと、天地の神々に切にお祈りする。恐れおおいことではあるけれども。(伊藤 博 著 「万葉集二」角川ソフィア文庫より)

(注)をちこち 【彼方此方・遠近】名詞:あちらこちら。

(注)あやに【奇に】副詞:①なんとも不思議に。言い表しようがなく。②むやみに。ひどく。

(注)ともし【羨し】形容詞:慕わしい。心引かれる。

(注)たまかづら 【玉葛・玉蔓】分類枕詞:つる草のつるが、切れずに長く延びることから、「遠長く」「絶えず」「絶ゆ」に、また、つる草の花・実から、「花」「実」などにかかる。

 

 

反歌二首」のもう一首をみていこう。

 

◆萬代 見友将飽八 三芳野乃 多藝都河内之 大宮所

               (笠 金村 巻六 九二一)

 

≪書き下し≫万代(よろずよ)に見(み)とも飽(あ)かめやみ吉野のたぎつ河内(かふち)の大宮(おほみや)ところ 

 

(訳)万代ののちまで見つづけても見飽きるなどということがあろうか。み吉野の激流渦巻く河内の、この大宮所は(伊藤 博 著 「万葉集二」角川ソフィア文庫より)

(注)たぎつ 【滾つ・激つ】:水がわき立ち、激しく流れる。心が激することをたとえていうことも多い。

(注)かふち 【河内】:川の曲がって流れている所。また、川を中心にした一帯。「かはうち」の変化した語。

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉の大和路」 犬養 孝/文 入江泰吉/写真 (旺文社文庫

★「犬養孝揮毫万葉歌碑マップ(明日香村)」

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

 

※210426朝食関連記事削除、一部改訂。