●歌は、「明日香川 明日も渡らむ 石橋の遠き心は 思ほえぬかも」である。
●歌をみていこう。
◆明日香川 明日文将渡 石走 遠心者 不思鴨
(作者未詳 巻十一 二七〇一)
≪書き下し≫明日香川明日(あす)も渡らむ石橋(いしばし)の遠き心は思ほえぬかも
(訳)明日香川 あの川を明日にでも渡って逢いに行こう。その飛石のように、離れ離れの遠く隔てた気持ちなどちらっとも抱いたことはないのです。(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)
犬養孝氏揮毫の万葉歌碑めぐりもいよいよ残り1か所。県道15号線を走る。マップによると、飛鳥川右岸に標がしてある。飛鳥川をはさんで右岸が、マップでは、「歩行での移動に適した道」で、左岸が「車での移動に適した道」となっている。歌碑の標は、分岐から200m位の地点であるので、右岸を選択する。分岐の手前に、稲淵棚田の看板が立っており、何人かが棚田を撮影しているようである。帰りに寄ることにし、予定通り分岐の左側の道を進む。しばらく行くと、「飛石右手方向」の立札があった。車を止めようがない。止められそうなところを探し進がないので、しばらく進んでUターンすることに。何とかUターンして、「飛石」案内板近くの納屋ような建物の前のスペースに、申し訳ないと心で叫んで、車を止め急いで飛鳥川の方に降りていく。小さな滝がありなかなかの風情である。橋があるがどこにどう行けばよいのか全く見当がつかない。案内板も見当たらない。うろうろ探すが、見つからない。車が気になるので、あきらめて戻る。
先ほどの分岐のところまで戻り、左岸側の県道51号線を走り、マップ上の「らしき地点」を探す。しばらく行くと、手書きの「飛石」の文字と左下方向の指さし案内板が目に飛び込む。しばらく行ってからUターン。車を止め、手書きの案内板をたよりに、人ひとり通れる細い道を下る。川の流れの音が耳に飛び込む。細い道の先に、飛石があった。しかし、辺りを見渡しても肝心の歌碑らしきものは見当たらない。
飛石を渡る。歌碑はない。結局あきらめる。もう一度振り出しまでゆっくり戻ることに。車で降りれそうなところがあるが、どうもそこは、先ほど右岸側から降りてきたところである。もう一度降りていく。逆方向からの探索である。橋の周辺を念入りに探すがやはり見つからない。あきらめつつもあきらめられない気持ちで車まで戻る。ゆっくりと手掛かりを探しながら進む。
今度は、手書きの「飛石」の文字と、右下方である。車を止め、祈る気持ちで、川を目指す。畑の縁を縫うように進む。川中に飛石が見えた。さらに進むと、小さな橋に出る。橋向の右手に歌碑らしきものが。ありました。ありました。ありました。
今日は何という日なのだろう。素直に行き着いたのはしょっぱなだけで、あとは、遠回り、遠回り、行きつ戻りつの繰り返しである。あきらめなかった、執念で探し当てたのだ。今日見つからなくても、「明日香川 明日も渡らむ石橋の遠き心は思ほえぬかも」である。
帰りがけに、先ほど見かけた「稲渕棚田」の所に車を止め、棚田をみる。
犬養孝氏揮毫15の万葉歌碑すべて巡ったのである。
(参考文献)
★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)
★「犬養孝揮毫万葉歌碑マップ(明日香村)」
※20210503朝食関連記事削除、一部改訂。