●歌は、「明日香川瀬々に玉藻生ひたれどしがらみあれば靡きあらなくに」である。
●歌をみていこう。
◆明日香川 湍瀬尓玉藻者 雖生有 四賀良美有者 靡不相
(作者未詳 巻七 一三八〇)
≪書き下し≫明日香川瀬々(せぜ)に玉藻は生(お)ひたれどしがらみあれば靡きあはなくに
(訳)明日香川の瀬ごとに玉藻は生えているけれど、しがらみが設けてあるので靡きあうことができないでいる。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)
(注)上三句は男女が相思相愛であることを歌い、しがらみは、仲を妨げる者の譬え。
この前の歌も、題詞「寄河」の歌群で、明日香川を詠んでいるのでみてみよう。
◆不絶逝 明日香川之 不逝有者 故霜有如 人之見國
(作者未詳 巻七 一三八一)
≪書き下し≫絶えず行く明日香の川の淀めらば故(ゆえ)しもあるごと人の見まくに
(訳)いつもさらさらと流れ行く明日香の川がもし淀むようなことがあったら、何かわけがあるように人がみるでしょうに。
「犬養孝氏揮毫の万葉歌碑マップ(明日香村)」によると、石舞台古墳の南西方向飛鳥川にかかる玉藻橋近くにある。
明日香夢の旬菜館に車を止め、左手に石舞台方面を見ながら南に歩く。やがて、玉藻橋が見えて来る。向かって左手の橋のたもとに長方形の歌碑がある。
犬養 孝氏は、その著「万葉の大和路」(旺文社文庫)のなかで、「飛鳥川は『万葉集』に出てくる川の中では、最高に多くて二十五回に及んでいて、如何に万葉びとの生活と密着しているかを物語っている。」書かれ、さらに、一三八〇歌に関して、「古代から田に水をひくために、しがらみ(竹や木で水をせきとめるようにしたもの)があって、いつもそれを見ている体験があればこそ、玉藻はのびてなびきゆれるが、邪魔があるため思う人に会えぬなげきを、『しがらみ』あれば靡きあえないと嘆くのだ。」と書いておられる。
「明日香川瀬々の玉藻のうちなびき情(こころ)は妹に寄りにけるかも(巻一三 三二六七)」のように飛鳥川と生活が密着しているだけに玉藻のうち靡く姿を踏まえて愛しい人への思いを歌い上げているのである。
この歌碑で、「犬養孝氏揮毫の万葉歌碑マップ(明日香村)」と「万葉歌碑データベース(奈良女子大)」をもとにした歌碑をほぼ巡り終えた。
これからは近畿各県の万葉歌碑を訪ねて行きたいと考えている。
玉藻のようにこころは歌碑に寄りにけるかもである。
(参考文献)
★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)
★「犬養孝氏揮毫の万葉歌碑マップ(明日香村)」
★「万葉歌碑データベース」(奈良女子大)
★「万葉の大和路」 犬養 孝/文 入江泰吉/写真 (旺文社文庫)
※20210503朝食関連記事削除、一部改訂。