万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その218)―京都府城陽市寺田 正道官衙遺跡公園 №23<巻10-1870>―

 

●歌は、「春雨はいたくな降りそ桜花いまだ見なくに散らまく惜しも」である。

 

 

f:id:tom101010:20191006134156j:plain

京都府城陽市寺田 正道官衙遺跡公園万葉歌碑(作者未詳)

 

●歌碑は、京都府城陽市寺田 正道官衙遺跡公園 にある。

 

●歌をみていこう。

◆春雨者 甚勿零 櫻花 未見尓 散巻惜裳

                (作者未詳 巻十 一八七〇)

 

≪書き下し≫春雨はいたくな降りそ桜花いまだ見なくに散らまく惜(を)しも

 

(訳)春雨よ、ひどくは降ってくれるな。桜の花をまだよく見ていないのに、散らしてしまうのは惜しまれてならない。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

 

 この歌は、題詞「詠花」二十首のうちの一首である。一八六九歌も「春雨」で始まっているので、これも見ておこう。

 

◆春雨尓 相争不勝而 吾屋前之 櫻花者 開始尓家里

                 (作者未詳 巻十 一八六九)

 

≪書き下し≫春雨に争ひかねて我がやどの桜の花は咲きそめにけり

 

(訳)春雨に逆らいかねて、我が家の庭の桜の花は、ようやく咲き始めた。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

 

 春雨を一八六九歌では、桜の花の咲くのを促すものとみており、一八七〇歌では、花の散るのを早めるものとみている。

 

 このほかに「春雨」をどのように見ているかを、伊藤 博 著 「万葉集 四」 (角川ソフィア文庫)の初句索引で調べてみよう。

 

◆春雨尓 衣甚 将通哉 七日四零者 七日不来哉

                  (作者未詳 巻十 一九一七)

 

≪書き下し≫春雨に衣(ころも)はいたく通(とほ)らめや七日(なぬか)し降らば七日来(こ)じやと

 

(訳)春雨で、肌着までびっしょり濡れ通るようなことがありましょうか。もし七日降り続いたなら、七日ともおいでにならないというのですか。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

※春雨を口実に通って来ない男への恨みつらみの歌である。

 

◆春雨尓 毛延之楊奈疑可 烏梅乃花 登母尓乎於久礼奴 常乃物能香聞

                (大伴家持 巻十七 三九〇三)

 

≪書き下し≫春雨に萌(も)えし柳か梅の花ともに遅れぬ常(つね)の物かも

 

(訳)この柳は、春雨に誘われて萌え出た柳なのか。それとも、梅の花が咲き揃うにつれて遅れじと萌え出す、例によっての例のとおりの柳なのか。(伊藤 博 著 「万葉集 四」 角川ソフィア文庫より)

 ※春雨を柳の芽吹き、梅の花の咲くのを誘い出すものとみている。

 

◆春雨乃 敷布零尓 高圓 山能櫻者 何如有良武

                 (河邊東人 巻八 一四四〇)

 

≪書き下し≫春雨のしくしく降るに高円(たかまど)の山の桜はいかにかあるらむ

 

(訳)春雨がしきりに降り続いている今頃、高円山の桜はどのようになっているのであろう。もう咲き出したであろうかな。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

 ※春雨を桜の開花を促すものとみている。

 

◆春雨之 不止零ゝ 吾戀 人之目尚矣 不止零乍

              (作者未詳 巻十 一九三二)

 

≪書き下し≫春雨のやまず降る降る我(あ)が恋ふる人の目すらを相(あひ)見(み)せなくに

 

(訳)春雨が絶え間なく降り続いて、私が逢いたい逢いたいと思うあの方のお顔さえも、いっこうにみせてくれない。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

 ※春雨にかこつけて男を怨む歌である。

 

◆春雨乎 待常二師有四 吾屋戸之 若木乃梅毛 未含有

                (藤原久須麻呂 巻四 七九二)

 

≪書き下し≫春雨を待つとにしあらし我がやどの若木の梅もいまだふふめり

 

(訳)春の若木は春雨の降るのを待つもののようです。わが家の梅の若木もいまなおつぼんだままです。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

 ※七八六歌「春の雨はいやしき降るに梅の花いまだ咲かなくいと若(わか)みかも<春の雨はいよいよしきりに降り続くのに、梅の花がまだ咲かないのは、よほど木が若いからでしょうか>」を承けた歌。「春の雨はいやしき降る」とは、藤原久須麻呂が大伴家持の娘に誘いかけていることをいう。

(注)ふふむ【含む】:花や葉がふくらんで、まだ開ききらないでいる。つぼみのままである。

 

 春雨に、いろいろな思いを馳せてうたった歌の数々、自然感と生活感の調和である。

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 一~四」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

 

●本日のザ・モーニングセット&フルーツフルデザート

 サンドイッチは、レタス、トマトそして焼き豚である。デザートは、中央に、りんごと柿のカットを交互に並べ周囲を赤と緑のブドウで加飾した。まん中にブドウの切合わせを置いた。

f:id:tom101010:20191006134443j:plain

10月6日のザ・モーニングセット

f:id:tom101010:20191006134521j:plain

10月6日のフルーツフルデザート