万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その220)―京都府城陽市寺田 正道官衙遺跡公園 №25<巻10 1859歌>

 

●歌は、「馬並めて多賀の山辺を白栲ににほはしたるは梅の花かも」である。

 

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京都府城陽市寺田 正道官衙遺跡公園万葉歌碑(作者未詳)

●歌碑は、京都府城陽市寺田 正道官衙遺跡公園にある。

 

●歌をみていこう。

◆馬並而 高山部乎 白妙丹 令艶色有者 梅花鴨

(作者未詳 巻十 一八五九)

 

≪書き下し≫馬並(うまな)めて多賀(たか)の山辺(やまべ)を白栲(しろたへ)ににほはしたるは梅のはなかも

 

(訳)馬を勢揃いして手綱をたく、そのたくではないが、この多賀の山辺を真っ白に染めているのは、梅の花なのであろうか。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)うまなめて 【馬並めて】( 枕詞 ):馬を並べて手綱をたぐることから、「たく」と音の通じる地名「たか」にかかる。(コトバンク 三省堂 大辞林 第三版)

(注)多賀:京都府綴喜郡井手町多賀

 

 この歌が収録されている、巻十は、次のような構成になっている。

 一八一二歌から二三五〇歌まで全部で五三九首収録されている。

 部立「雑歌」、「相聞」が四季ごとに立てられている。

   【春】春雑歌  一八一二歌~一八八九歌   七十八首

      春相聞  一八九〇歌~一九三六歌   四十七首

   【夏】夏雑歌  一九三七歌~一九七八歌   四十二首

      夏相聞  一九七九歌~一九九五歌    十七首

   【秋】秋雑歌  一九九六歌~二二三八歌 二百四十三首 

      秋相聞  二二三九歌~二三一一歌   七十三首

   【冬】冬雑歌  二三一二歌~二三三二歌   二十一首

      冬相聞  二三三三歌~二三五〇歌    十八首

 さらに、特徴的なことは、それぞれの冒頭には、夏をのぞき、「柿本朝臣人麻呂歌集」が収録されている。

   【春】春雑歌  一八一二歌~一八一八歌     七首

      春相聞  一八九〇歌~一八九六歌     七首

   【夏】夏雑歌  

      夏相聞      

   【秋】秋雑歌  一九九六歌~二〇三三歌   三十八首 

      秋相聞  二二三九歌~二二四三歌     五首

   【冬】冬雑歌  二三一二歌~二三一五歌     四首

      冬相聞  二三三三歌~二三三四歌     二首

 

 さらに、「秋雑歌」の題詞「詠花」二〇九四歌~二一二七歌でも、冒頭の二〇九四歌~二〇九五歌の二首、題詞「詠黄葉」二一七八歌~二二一八歌の冒頭二一七八歌~二一七九歌の二首、題詞「詠雨」二二三四歌~二二三七歌の冒頭の二二三四歌一首が、「柿本朝臣人麻呂歌集」となっている。同じようなことが、巻七、巻十一、巻十二についてもあてはまるのである。

 このことから、「柿本朝臣人麻呂歌集」が万葉集の編纂にあたって大きな影響力をもっていたことがうかがい知れる。

 「柿本朝臣人麻呂歌集」については、「コトバンク 平凡社世界大百科事典 第2版」によると、「《万葉集》成立以前の和歌集。人麻呂が2巻に編集したものか。春秋冬の季節で分類した部分をもつ〈非略体歌部〉と,神天地人の物象で分類した部分をもつ〈略体歌部〉とから成っていたらしい。表意的な訓字を主として比較的に少ない字数で書かれている〈略体歌〉には,676年(天武5)ころ以後の宮廷の宴席で歌われたと思われる男女の恋歌が多い。いっぽう助詞などを表音的な漢字で書き加えて比較的に多い字数で書かれている〈非略体歌〉には,680‐701年ころの皇子たちを中心とする季節行事,宴会,出遊などで作られた季節歌,詠物歌,旅の歌が多い。」とある。

 「柿本朝臣人麻呂歌集」そのものについての記載はなく推測の域をでない書きようで、逆に「万葉集」に収録されている「柿本朝臣人麻呂歌集出」からの記録の基づくものは断定的に記載されている。

 柿本人麻呂自身についても諸説があり、いまだに多くの謎を残している。

 

 巻十の構成をみるところから柿本朝臣人麻呂歌集にまで脱線したが、ここで注目すべき点を挙げてみる。

 この歌碑も作者は、「作者未詳」となっているが、上述の、巻七、巻十、巻十一、巻十二については、すべて作者未詳歌である。

 加えて、巻十三、巻十四(東歌)もすべて作者未詳歌なのである。

 万葉集二十巻の内、巻七、巻十~十四の「六巻」一八〇七首、が作者未詳歌である。

日本古典文学大系万葉集三」の「解説」によると、万葉集全体では二一〇三首が作者未詳歌であるという。四五一六首として半数に近い45.2%を占めているのである。

 

 口誦から記載、いわば記憶から記録、さらには、作者未詳歌の比率など万葉集編纂業務の桁外れな工数を考えると、「万葉集」の存在自体の超特異性が何かを訴えてくる。それだけに課題は言い表せないほどあるとしか言いようがない。

 歌碑の歌から、作者から手掛かりを得て万葉集の真髄に少しでも近づきたい。このような決意的な課題への取り組みのようなものを幾度となく書いてきたが、とにかく前に前にとの気持ちで、挑戦し続けたい。

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集をどう読むか―歌の『発見』と漢字世界」 神野志隆光 著 (東京大学出版会

★「別冊國文學 万葉集必携」 稲岡耕二 編 (學燈社

★「コトバンク 三省堂 大辞林 第三版」

★「コトバンク 平凡社世界大百科事典 第2版」

 

●本日のザ・モーニングセット&フルーツフルデザート

 サンドイッチは、レタス、焼き豚、トマト、キュウリ、ニンジンを使ったオープンサンドである。デザートは、バナナ、りんご、柿、ブドウと秋の味覚を積み上げて行った。ヨーグルトとの組み合わせは抜群である。同じ材料なのに、切り方で味も変わる感じがする。毎日の挑戦は続けて行く。

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10月8日のザ・モーニングセット

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10月8日のフルーツフルデザート