万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(太宰府番外編その3)―太宰府メモリアルパーク―梅花の歌三十二首

太宰府番外編(その3)

 

本稿では、八二三から八二九歌をみていこう。 

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「令和元号記念碑」と「梅花の宴の説明案内図絵」


 

◆烏梅能波奈 知良久波伊豆久 志可須我尓 許能紀能夜麻尓 由企波布理都ゝ  [大監伴氏百代]

              (伴氏百代 巻八 八二三)

 

≪書き下し≫梅の花散らくはいづくしかすがにこの城(き)の山に雪は降りつつ [大監(だいげん)伴氏百代(ばんじのももよ)]

 

(訳)梅の花が雪のように散るというのはどこなのでしょう。そうは申しますものの、この城の山にはまだ雪が降っています。その散る花はあの雪なのですね。(伊藤 博 著 「万葉集 一」角川ソフィア文庫より)

(注)城の山:大野山

(注)大監(だいげん):〘名〙 大宰府の判官のうちの上位の二人。正六位下相当。下に少監がある。

 

■伴氏百代:大伴宿祢百代(おほとものすくねももよ)。万葉集には、七首収録されている。

 

この歌は、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その890で紹介している。

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◆烏梅乃波奈 知良麻久怨之美 和我曽乃ゝ 多氣乃波也之尓 于具比須奈久母  [小監阿氏奥嶋]

              (阿氏奥嶋 巻八 八二四)

 

≪書き下し≫梅の花散らまく惜しみ我が園の竹の林にうぐひす鳴くも [少監(せうげん)阿氏奥嶋(あじのおきしま)]

 

(訳)梅の花の散るのを惜しんで、この我らが園の竹の林で、鴬(うぐいす)がしきりに鳴いている。(同上)

(注)少監:〘名〙 令制の官職で、大宰府の第三等官(判官(じょう))のうち下位の職。大監(だいげん)と同じく、治安の監督をし、文書の起草などをつかさどった。定員二名。従六位上に相当。

 

■阿氏奥嶋:万葉集にはこの歌にみ収録されている。阿部朝臣息嶋か。

 

 

◆烏梅能波奈  佐岐多流曽能ゝ  阿遠夜疑遠  加豆良尓志都ゝ  阿素▼久良佐奈  [小監土氏百村]               

▼「田+比」=び

                (土氏百村 巻八 八二五)

 

≪書き下し≫梅の花咲きたる園の青柳をかづらにしつつ遊び暮らさな  [小監(せうげん)土氏百村(とじのももむら)] 

 

(訳)梅の花の咲いているこの園の青柳、この青柳を縵(かづら)にしながら、今日一日を楽しく遊びくらそうよ。(同上)

 

■土氏百村:土師宿祢百村とすれば養老五年(七二一年)退朝の後東宮に侍す。万葉集にはこの歌のみ収録されている。

 

 

◆有知奈▼久 波流能也奈宜等 和我夜度能 烏梅能波奈等遠 伊可尓可和可武  [大典史氏大原]               

 ▼「田+比」=び

               (史氏大原 巻八 八二六)

 

≪書き下し≫うち靡(なび)く春の柳と我がやどの梅の花とをいかにか分(わ)かむ  [大典(だいてん)史氏大原(しじのおほはら)]

 

(訳)しなやかな春の柳とこの我らの庭前の梅の花の趣と、その優劣をそうして分けられようぞ。(同上)

 

(注)大典:律令制で、大宰府の主典(さかん)で少典の上に位するもの。(コトバンク デジタル大辞泉より)

 

■史氏大原:伝未詳。万葉集にはこの歌のみ収録されている。

 

 

 

◆波流佐礼婆 許奴礼我久利弖 宇具比須曽 奈岐弖伊奴奈流 烏梅我志豆延尓  [小典山氏若麻呂]

               (山氏若麻呂 巻八 八二七)

 

≪書き下し≫春されば木末隠(こぬれがく)りてうぐひすぞ鳴きて去(い)ぬなる梅が下枝(しづえ)に  [少典(せうてん)山氏若麻呂(さんじのわかまろ)]

 

(訳)春がやってくると、梢がくれに鴬が鳴いては飛び移って行く。枝の下枝あたりに。(同上)

(注)少典:律令制で、大宰府の主典(さかん)で大典(たいてん)の下に位するもの。(コトバンク デジタル大辞泉

 

■山氏若麻呂:山口忌寸若麻呂(やまぐちのいみきわかまろ) 万葉集には二首(巻四 五六七・巻八 八二七)が収録されている。

 

 

◆比等期等尓 乎理加射之都ゝ 阿蘇倍等母 伊夜米豆良之岐 烏梅能波奈加母  [大判事丹氏麻呂]

              (丹氏麻呂 巻八 八二八)

 

≪書き下し≫人ことに折りかざしつつ遊べどもいやめづらしき梅の花かも  [大判事(だいはんじ)丹氏麻呂(たんじのまろ)]

 

(訳)人それぞれに手折りかざして賞(め)で遊ぶけれども、ますます心ひかれる花だ、この梅の花は。(同上)

(注)大判事:律令制で、刑部(ぎょうぶ)省や大宰府の上級の判事。中判事の上(コトバンク デジタル大辞泉

 

■丹氏麻呂:伝未詳。万葉集にはこの一首のみ収録されている

 

 

◆烏梅能波奈 佐企弖知理奈波 佐久良婆那 都伎弖佐久倍久 奈利尓弖阿良受也  [藥師張氏福子]

               (張氏福子 巻八 八二九)

 

≪書き下し≫梅の花咲きて散りなば桜花(さくらばな)継(つ)ぎて咲くべくなりにてあらずや  [藥師(くすりし)張氏福子(ちやうじのふくじ)]

 

(訳)梅の花が咲いて散ってしまったならば、桜の花が引き続き咲くようになっているではないか。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

(注)薬師:大宰府医師

 

■張氏福子:伝未詳 奈良時代の医師。万葉集にはこの一首のみ収録されている。

 

 この歌は、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その485)」で紹介している。

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 (参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 一」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「別冊國文學 万葉集必携」 稲岡耕二 (學燈社

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「コトバンク デジタル大辞泉

★「コトバンク 精選版日本国語大辞典

★「太宰府万葉歌碑めぐり」 (太宰府市

★「天空の楽園 太宰府メモリアルパーク『万葉歌碑めぐり』太宰府悠久の歌碑・句碑」 (太宰府メモリアルパーク