万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その1591)―北区細江町 細江公園「文学の丘」―万葉集 巻十四 三四二九

●歌は、「遠江引佐細江のみをつくし我れを頼めてあさましものを」である。

北区細江町 細江公園「文学の丘」万葉歌碑(作者未詳)

●歌碑は、北区細江町 細江公園「文学の丘」にある。

 

●歌をみてみよう。

 

部立は「譬喩歌」である。

 

◆等保都安布美 伊奈佐保曽江乃 水乎都久思 安礼乎多能米弖 安佐麻之物能乎

      (作者未詳 巻十四 三四二九)

 

≪書き下し≫遠江(とほつあふみ)引佐細江(いなさほそえ)のみをつくし我(あ)れを頼(たの)めてあさましものを

 

(訳)遠江の引佐細江(いなさほそえ)のみおつくし、そいつは俺をすっかり安心させておいてからが・・・、いっそ水を干しあげて役立たずにさせてやればよかったのに。(「万葉集 三」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)

(注)いなさほそえ【引佐細江】:静岡県浜名湖北東部の支湖。風景絶佳で知られる。歌枕。(広辞苑無料検索 日本国語大辞典

(注)みをつくし【澪標】名詞:往来する舟のために水路の目印として立ててある杭(くい)。⇒参考:「水脈(みを)つ串(くし)」の意。「つ」は「の」の意の古い格助詞。難波の淀(よど)川河口のものが有名。昔、淀川の河口は非常に広がっていて浅く、船の航行に難渋したことから澪標が設けられた。歌では、「わびぬれば今はた同じ難波なるみをつくしても逢(あ)はむとぞ思ふ」(『後撰和歌集』)〈⇒わびぬればいまはたおなじ…。〉のように、「身を尽くし」にかけ、また、「難波」と呼応して詠まれることが多い。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

(注)三四二九歌は、一時頼りに思わせて裏切った女を恨む歌。「みをつくし」は女の譬え。(伊藤脚注)

(注)あさましものを:いっそつれなくしてやればよかった。「あさ」は四段動詞「あす」の未然形で、浅くするの意か。(伊藤脚注)

(注の注)あす【浅す・褪す】自動詞:①(海・川・池などが)浅くなる。干上がる。②(色が)さめる。あせる。③(勢いが)衰える。(学研)

(注の注)ましものを 分類連語:…だったらよかったのに。…していたらよかったものを。⇒なりたち:反実仮想の助動詞「まし」の連体形+詠嘆の終動詞「ものを」(学研)

 

 

左注は、「右一首遠江國歌」<右の一首は遠江(とほつあふみ)の国の歌>である。

 

 

 「細江公園」については、「ハローナビしずおか 公益社団法人 静岡県観光協会 HP」に、「入口の広場中央に9鐘型のカリヨン時計(カリヨン停止中)が立ち、散歩道の先にある『文学の丘』には歌碑が並んでいます。展望台からは、都田川と浜名湖に囲まれた細江の街を一望できます。」と書かれている。

 公園に着くや、案内図を見て「文学の丘」を目指す。

「細江公園園内案内図」

 今回も「万葉歌碑」一途である。「文学の丘」らしい他の歌碑はおろか、「展望台からの都田川と浜名湖に囲まれた細江の街」も見ていない。

 ブログを書いている時に、今回でも一望した光景などについて触れることができないもどかしさを感じてしまう。

 しかし、現地では、歌碑を一つでも多くという気持ちに駆られてしまい、ゆとりがない。従って、ブログの文章にもゆとりや面白みがない、洒落た言い回しもないと分かっているが、早く次の歌に進みたいと思ってしまう。 

間がとれない、遊びのないハンドル操作みたいなぎこちなさ。

万葉集があまりにもその存在感が大きい故であろう。(万葉集のせいにしてはいけないのだが。)

 

 

 切り替えて、もう一首「みをつくし」を詠んだ歌をみてみよう。こちらは、「妻を思う」歌である。

 

水咫衝石 心盡而 念鴨 此間毛本名 夢西所見

       (作者未詳 巻十二 三一六二)

 

≪書き下し≫みをつくし心尽(つく)して思へかもここにももとな夢(いめ)にし見ゆる

 

(訳)みおつくしの名のように、心を尽くして、家の妻が私のことばかりを思っているせいか、旅先のここにも、むやみやたらに妻の姿が夢に出てくる。(同上)

(注)みをつくし:枕詞。「尽し」に懸る。(伊藤脚注)

(注)もとな 副詞:わけもなく。むやみに。しきりに。 ※上代語。(学研)

 

 この歌についてはブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その1189)」で紹介している。

 ➡ 

tom101010.hatenablog.com

 

 

 「はままつ万葉歌碑・故地マップ」(制作 浜松市)に、細江公園と同じ歌の歌碑が、細江町西気賀小学校にあると載っている。また先達のブログ等をみていくと旧細江町の町章は澪標で、都田川河口にモミュメントが設置されているとあったので、後日の参考にとグーグルストリートビューで検索してみた。

 

「都田川河口静岡県中国浙江省友好記念公園附近の澪標のモニュメント」         グーグルストリートビューから作成させていただきました。

 

次回、西気賀小学校の歌碑巡りとこのモニュメント撮影という課題が明確になったのである。

 

「みおつくし」といえば、大阪市の市章である。小生は、大阪市内で生まれ育ったので、小さいころ夜の22時に澪標の鐘がなり響いていたことが思い出された。同時に「みおつくし良い子はみんな寝ています」と吹き込まれたことも思い出した。

「みをつくし」から一気に昔の事が走馬灯の様に頭の中を流れていった。

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 三」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫)

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「広辞苑無料検索 日本国語大辞典

★「グーグルストリートビュー

★「ハローナビしずおか 公益社団法人 静岡県観光協会 HP」

★「はままつ万葉歌碑・故地マップ」(制作 浜松市