万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その1702,1703)―滋賀県竜王町 妹背の里(1,2)―万葉集 巻一 二〇、二一

―その1702―

●歌は、「あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る」である。

滋賀県竜王町 妹背の里(1)万葉歌碑(額田王

●歌碑は、滋賀県竜王町 妹背の里(1)にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆茜草指 武良前野逝 標野行 野守者不見哉 君之袖布流

      (額田王 巻一 二〇)

 

≪書き下し≫あかねさす紫野行き標野(しめの)行き野守(のもり)は見ずや君が袖振る

 

(訳)茜(あかね)色のさし出る紫、その紫草の生い茂る野、かかわりなき人の立ち入りを禁じて標(しめ)を張った野を行き来して、あれそんなことをなさって、野の番人が見るではございませんか。あなたはそんなに袖(そで)をお振りになったりして。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

(注)あかねさす【茜さす】分類枕詞:赤い色がさして、美しく照り輝くことから「日」「昼」「紫」「君」などにかかる。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

(注)むらさき 【紫】①草の名。むらさき草。根から赤紫色の染料をとる。②染め色の一つ。①の根で染めた色。赤紫色。古代紫。古くから尊ばれた色で、律令制では三位以上の衣服の色とされた。(学研)

(注)むらさきの 【紫野】:「むらさき」を栽培している園。(伊藤脚注)

(注)しめ【標】:神や人の領有区域であることを示して、立ち入りを禁ずる標識。また、道しるべの標識。縄を張ったり、木を立てたり、草を結んだりする。(学研)

(注)野守:天智天皇を寓したもの。額田王が天智妻であることを匂わせる。(伊藤脚注)

(注の注)のもり【野守】名詞:立ち入りが禁止されている野の番人。(学研)

 

 

―その1703―

●歌は、「紫草のにほえる妹を憎くあらば人妻故に我れ恋ひめやも」である。

滋賀県竜王町 妹背の里(2)万葉歌碑(大海人皇子

●歌碑は、滋賀県竜王町 妹背の里(2)にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆紫草能 尓保敝類妹乎 尓苦久有者 人嬬故尓 吾戀目八方

       (大海人皇子 巻一 二一)

 

≪書き下し≫紫草(むらさき)のにほへる妹(いも)を憎(にく)くあらば人妻(ひとづま)故(ゆゑ)に我(あ)れ恋(こ)ひめやも

 

(訳)紫草のように色美しくあでやかな妹(いも)よ、そなたが気に入らないのであったら、人妻と知りながら、私としてからがどうしてそなたに恋いこがれたりしようか。(伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)

(注)にほふ【匂ふ】自動詞:①美しく咲いている。美しく映える。②美しく染まる。(草木などの色に)染まる。③快く香る。香が漂う。④美しさがあふれている。美しさが輝いている。⑤恩を受ける。おかげをこうむる。(学研)ここでは④の意

(注)めやも 分類連語:…だろうか、いや…ではないなあ。 ⇒なりたち:推量の助動詞「む」の已然形+反語の係助詞「や」+終助詞「も」(学研)

 

 

 この両歌についてはブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その258)」他で紹介している。

 ➡ 

tom101010.hatenablog.com

 

 

 

 2020年2月10日に、蒲生郡竜王町 雪野山大橋欄干の両歌の歌碑(プレート)を巡った時に妹子の里も訪ねたのである。実は、この時事前調査不足で月曜日が休園日であることを見落していたのであった。今回はいわば雪辱戦である。

「妹背の里」入口

 駐車場に車を停め入場する(いずれも無料)。「妹背の館」を背にほぼ一直線、池越えで「妹背の像」を目指す。

妹背の像

 小山の芝生では、芝刈りロボットが働いている。小山の周りには4つの歌碑が建てられている。

 額田王中大兄皇子大江匡房そして和泉式部である。

大江国房の歌は、

 「蒲生野のしめのの原の女郎花野寺に見するもいもが袖なり」、

和泉式部の歌は、

 「暮れにきと告ぐるぞ待たで降りはるる雪野の寺の入相の鐘」である。

大江匡房の歌碑

和泉式部の歌碑

 

 「妹背の里」については、「滋賀・びわ湖観光情報」(びわこビジターズビューローHP)の「雪野山史跡広場『妹背の里』」に「静かな自然に囲まれた環境と多くの歴史・文化遺産をもつ雪野山麓に約5ヘクタールの敷地をもつ万葉ロマンあふれるレクリエーションゾーン『妹背の里』。 この地域は、昔、大津京のころ額田王大海人皇子との相聞歌で有名な蒲生野に位置しておりすべての建物が歴史背景のもとに大社風となっています。また野外活動ができる芝生広場や浮き舞台が設けられグループや家族向きにキャンプやバーベキューなど手軽に楽しめるよう整備されています。

バンガロー10棟(有料)、貸テント15張(有料)、炊事施設、トイレ」と書かれている。

 

「園内MAP」は次の通りです。

竜王町地域振興事業団HPの「妹背の里園内MAP」より引用させていただきました。

 

 「妹背の里」に行く前に、さざなみ街道(県道559号線)沿いの湖岸緑地岡山園地近くの「水茎岡の万葉歌碑」を探しに行ったのである。前回も、先達のブログなどを参考に、あちこち探し周ったのであるが結局見つからず諦めたのであった。

今回も見つけることができなかったので、近江八幡市役所に問い合わせたのである。窓口の方は、調べて資料等お送りいたしますとのことであった。

驚いたことに、当日、お電話をいただいたのである。しかも息急き切った状態で、「現地まで確認に行きました。」と。おそらく現地からの電話であろう。有り難いことである。

歌碑があるであろう位置を確認したが、草木が生い茂り見つけることができなかったとの一報であった。

後日、およその位置の地図と現地確認の写真等詳しい情報を送っていただいたのである。

 次回はこの資料を踏まえ3度目の正直を実践してみたいものである。

お忙しい中、わざわざ現地まで赴き、資料をお送りいただいた近江八幡市役所観光政策課の方にブログ上であらためてお礼申し上げます。

再々挑戦の結果について後日ご報告いたす所存です。

ありがとうございました。ありがとうございました。

 

万葉歌碑巡りにおいては、有り難いことに超親切に対応していただける人に恵まれている。自分もすこしでも人に親切に対応するように心がけ、こういった輪が広がればと思う。

万葉集に感謝である。

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 三」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「滋賀・びわ湖観光情報」 (びわこビジターズビューローHP)

★「妹背の里園内MAP」 (竜王町地域振興事業団HP)

★「近江八幡市役所観光政策課からいただいた資料」