―その2251―
●歌は、「岩代の浜松が枝を引き結びま幸くあらばまた返り見む」である。
●歌碑(プレート)は、名古屋市千種区東山元町 東山動植物園万葉の散歩道にある。
●歌をみていこう。
◆磐白乃 濱松之枝乎 引結 真幸有者 亦還見武
(有間皇子 巻二 一四一)
≪書き下し≫岩代(いはしろ)の浜松が枝(え)を引き結びま幸(さき)くあらばまた帰り見む
(訳)ああ、私は今、岩代の浜松の枝と枝を引き結んでいく、もし万一この願いがかなって無事でいられたなら、またここに立ち帰ってこの松を見ることがあろう。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)
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一四一歌ならびに「有間皇子結松記念碑」については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1193・番外岩代)」で紹介している。
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「有間皇子之碑」ならびに同背面に書かれた悲劇の経緯などは、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その白浜番外)」で紹介している。
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―その2252―
●歌は、「高円の野辺の秋萩いたづらに咲きか散るらむ見る人なしに」である。
●歌碑(プレート)は、名古屋市千種区東山元町 東山動植物園万葉の散歩道にある。
●歌をみていこう。
題詞は、「霊龜元年歳次乙卯秋九月志貴親王薨時作歌一首幷短歌」<霊龜元年歳次(さいし)乙卯(きのとう)の秋の九月に、志貴皇子(しきのみこ)の薨ぜし時に作る歌一首幷(あは)でて短歌>である。
(注)志貴皇子:《万葉集》の歌人。天智天皇の皇子。母は越道君伊羅都女(こしのみちのきみのいらつめ)。没年については2説がある。光仁天皇の父で,その即位に伴い御春日宮天皇と追尊された。田原天皇とも称される。壬申の乱では死を免かれ,《万葉集》に短歌6首を残す。清澄温雅な歌風。また笠金村による皇子の挽歌(巻2)は著名。(コトバンク 平凡社百科事典マイペディア)
◆高圓之 野邊秋芽子 徒 開香将散 見人無尓
(笠金村 巻二 二三一)
≪書き下し≫高円の野辺の秋萩いたづらに咲きか散るらむ見る人なしに
(訳)高円の野辺の秋萩は、今はかいもなくは咲いて散っていることであろうか。見る人もいなくて。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)
(注)いたづらなり【徒らなり】形容動詞:①つまらない。むなしい。②無駄だ。無意味だ。③手持ちぶさただ。ひまだ。④何もない。空だ。(学研)
(注)見る人:暗に志貴皇子をさす。(伊藤脚注)
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この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その19改)」で長歌(二三〇歌)およびもう一首(二三二歌)ならびに「或る本の歌」二首(二三三・二三四歌)とともに紹介している。
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白毫寺の境内にある歌碑の横の木札に「今、あなたがこの歌碑に向かはれる時、その直線状、約三kmの彼方高円山の裏側に志貴皇子のお墓(春日宮天皇陵)を拝されるのも又、奇しき因縁である」と記されている。
志貴皇子は、奈良市矢田原町 春日宮天皇田原西陵に祀られている。西陵の前には志貴皇子の歌碑(石走る垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも 巻八 一四一八歌)が立てられている。
―その2253―
●歌は、「我が心ゆたにたゆたに浮蒪辺にも沖にも寄りかつましじ」である。
●歌碑(プレート)は、名古屋市千種区東山元町 東山動植物園万葉の散歩道にある。
●歌をみていこう。
◆吾情 湯谷絶谷 浮蒪 邊毛奥毛 依勝益士
(作者未詳 巻七 一三五二)
≪書き下し≫我(あ)が心ゆたにたゆたに浮蒪(うきぬなは)辺にも沖(おき)にも寄りかつましじ
(訳)私の心は、ゆったりしたり揺動したりで、池の面(も)に浮かんでいる蒪菜(じゅんさい)だ。岸の方にも沖の方にも寄りつけそうもない。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)
(注)ゆたに>ゆたなり 【寛なり】形容動詞ナリ活用:ゆったりとしている。(学研)
(注)たゆたふ【揺蕩ふ・猶予ふ】①定まる所なく揺れ動く。②ためらう。(学研)
(注)寄りかつましじ:寄り付けそうにもあるまい。(伊藤脚注)
蒪(ぬなは)は、ジュンサイのことで、スイレン科の多年生植物。沼などの泥の中に根を延ばし、葉は楕円形で10cm程度。葉や茎はぬるぬるしていて水面に浮かんでいる。若い芽は食用にする。
「植物で見る万葉の世界」(國學院大學「万葉の花の会」発行)には、「集中、この1首のみが見られ、『草に寄せる』という分類の中の恋歌。私の心はゆらゆらとたゆたい、それは浮草のジュンサイのようだと譬え、岸にも沖にも寄ることは出来ないだろうと嘆く。自らの恋の行方の定まらない中途半端な状態を嘆いたものであり、自然を良く観察している目が、このような恋歌を生み出している。」と書かれている。
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この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その281)」で紹介している。
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(参考文献)
★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)
★「植物で見る万葉の世界」(國學院大學「万葉の花の会」発行)
★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」