■ぬるで■
●歌は、「足柄のわを可鷄山のかづの木の我を誘さねも門さかずとも」である。
●歌碑(プレート)は、千葉県袖ケ浦市下新田 袖ヶ浦公園万葉植物園にある。
●歌をみていこう。
◆阿之賀利乃 和乎可鶏夜麻能 可頭乃木能 和乎可豆佐祢母 可豆佐可受等母
(作者未詳 巻十四 三四三二)
<書き下し≫足柄(あしがり)のわを可鶏山(かけやま)山のかづの木の我(わ)を誘(かづ)さねも門(かづ)さかずとも
(訳)足柄の、我(わ)れを心に懸けるという可鶏山(かけやま)のかずの木、あの木がその名のように、いっそ私を誘(かず)す―そう、かどわかしてくれたらいいのになあ。門が開いていなくてもさ。(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)
(注)アシガリ:「あしがら」の訛り
(注)「わを可鶏」に「我を懸け」を懸けている。(伊藤脚注)
(注)かづの木:相模の国の方言で「ヌルデ(白膠木)をかづのき」と呼んでいるので、ヌルデであるとする説が有力。「植物で見る万葉の世界」(國學院大學「万葉の花の会」発行)
(注)門(かづ)さかず:「門し開かず」の意か。(伊藤脚注)
この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その2062)」で紹介している。
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「ぬるで」については、次のように書かれている。「わが国の各地をはじめ、朝鮮半島から中国、台湾に分布しています。葉は『うるし』に似ていますが、葉軸に翼があるのが異なります。8月から9月ごろ、円錐花序に黄白色の小さな花を咲かせます。葉に『ヌルデノオオミミフシアブラムシ』が寄生すると『ヌルデノミミフシ』と呼ばれる虫嬰(ちゅうえい)ができますが、タンニンを多く含むため、昔はお歯黒や白髪染めの原料として利用されたそうです。ふつうは被れませんが、虫嬰を触ったりすると被れる人もあるそうです。」(weblio辞書 植物図鑑)
この歌について、「植物で見る万葉の世界」(國學院大學「万葉の花の会」発行)のなかに、「集中、『かづのき』がみえるのはこの1首のみ。相模国の譬喩歌で、女性が詠んだものか、女性の気持を詠んだものと思われる。方言が使われていて、難解な歌の一つである。・・・かなり過激である。恋する女性の一途な気持ちが出ているようだが、言葉遊びの戯れ歌的要素も強い。」と書かれている。
方言が使われているが、声に出して読めば読むほどリズム感に酔ってくる。歌垣などで歌われたのであろう。
(参考文献)
★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)
★「植物で見る万葉の世界」(國學院大學「万葉の花の会」発行)
★「万葉植物園 植物ガイド105」(袖ケ浦市郷土博物館発行)
★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」
★「weblio辞書 植物図鑑」