●歌は、「臥いまろび恋ひは死ぬともいちしろく色には出でじ朝顔の花」である。
●歌をみていこう。
◆展轉 戀者死友 灼然 色庭不出 朝容㒵之花
(作者未詳 巻十 二二七四)
≪書き下し≫臥(こ)いまろび恋ひは死ぬともいちしろく色には出(い)でじ朝顔(あさがほ)の花
(訳)身悶えて恋死にすることはあっても、この思いをはっきり顔色に出したりはいたしますまい。朝顔の花みたいには。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)
(注)こいまろぶ【臥い転ぶ】自動詞:ころげ回る。身もだえてころがる。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)
(注)いちしろく>いちしるし【著し】形容詞:明白だ。はっきりしている。 ⇒参考:古くは「いちしろし」。中世以降、シク活用となり、「いちじるし」と濁って用いられる。「いち」は接頭語。(学研)
(注)朝顔の花:未詳。桔梗か。(伊藤脚注)
この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その283)」で朝顔の歌五首とともに紹介している。
➡ こちら283
現在のアサガオは、この当時渡来していないので、この「朝顔(あさがほ)」については、桔梗(ききょう)説・木槿(むくげ)説・昼顔説などがあるが、木槿も昼顔も夕方には花がしぼむので、「夕影(ゆふかげ)にこそ咲きまさりけれ」というのは桔梗であると考えるのが妥当であろうといわれている。
「あさがほ」の候補にもあげられた「ヒルガオ」についてみてみよう。
万葉集に詠われる「かほばな」がヒルガオであるとする説が有力である。
「かほばな(ヒルガオ)」を詠った歌をみてみよう。
題詞は、「大伴宿祢家持贈坂上大嬢歌一首并短歌」<大伴宿禰家持、坂上大嬢に贈る歌一首并(あは)せて短歌>である。
◆高圓之 野邊乃容花 面影尓 所見乍妹者 忘不勝裳
(大伴家持 巻八 一六三〇)
≪書き下し≫高円(たかまと)の野辺(のへ)のかほ花(ばな)面影(おもかげ)に見えつつ妹(いも)は忘れかねつも
(訳)高円の野辺に咲きにおうかお花、この花のように面影がちらついて、あなたは、忘れようにも忘れられない。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)
(注)かほ花:「かほばな」については、カキツバタ、オモダカ、ムクゲアサガオ、ヒルガオといった諸説がある。
この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その2370)」で長歌とさらに「かほばな」を詠った歌五首とともに紹介している。
➡
万葉集にゆかりのあるのは、朝顔と昼顔である。夕顔、夜顔もみてみよう。(下記の文章および写真は「tenki.jp」HPより引用作成させていただきました。)
■朝顔■
ヒルガオ科サツマイモ属。
朝早くに花を咲かせ、昼になる前にさっさと閉じてしまいます。色は白やピンク、青や紫など、花の大きさも大輪から小輪までと様々な品種があります。
日本へは、奈良時代の末期に遣唐使が中国から薬として種子を持ち帰ったものが始まりといわれています。
■昼顔■
アサガオと同じように朝に花が咲きますが、昼になってもしぼまないので、この名がついたといわれています。
観賞用として育てられることはなく、道ばたや野原などに生えています。地面の下に白い色の地下茎を伸ばして増えるため、一度生えると取り除くことが難しい、雑草魂の強い種類です。
■夕顔■
ウリ科ユウガオ属。
ユウガオはウリ科の植物で、大きな実を実らせます。長い実はナガユウガオ、丸い実はマルユウガオで、主にマルユウガオの実を細長いヒモ状に削って乾燥させると、カンピョウになります。
花は白。夕方に開き、翌日の昼にはしぼんでしまいます。
■夜顔■
ヒルガオ科ヨルガオ属。
白い花が印象的なヨルガオは、夕方から咲き始め翌朝にはしぼんでしまいます。夏は夜8時ごろから咲きはじめ、あたりにいい香りを放ち、朝にはしぼむという、まさに夜型の花です。パッと明るいアサガオとは対照的に、真っ白な花が夜道にぼんやりと浮かぶ姿は艶やかです。
(参考文献)
★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)
★「植物で見る万葉の世界」 (國學院大學「万葉の花の会」発行)
★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」
★「tenki.jp HP」