万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その712,713,714)―和歌山市岩橋 紀伊風土記の丘―万葉集 巻二十 四四四八、巻七 一三〇五、巻二 八七

 

―その712―

●歌は、「あぢさゐの八重咲くごとく八つ代にをいませ我が背子見つつ偲はむ」である。

 

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紀伊風土記の丘万葉植物園万葉歌碑(橘諸兄

●歌碑(プレート)は、和歌山市岩橋 紀伊風土記の丘万葉植物園(16)にある。

 

●歌をみていこう。

  

◆安治佐為能 夜敝佐久其等久 夜都与尓乎 伊麻世和我勢故 美都ゝ思努波牟

                (橘諸兄 巻二十 四四四八)

 

≪書き下し≫あぢさいの八重(やへ)咲くごとく八(や)つ代(よ)にをいませ我が背子(せこ)見つつ偲ばむ

 

(訳)あじさいが次々と色どりを変えてま新しく咲くように、幾年月ののちまでもお元気でいらっしゃい、あなた。あじさいをみるたびにあなたをお偲びしましょう。(伊藤 博 著 「万葉集 四」 角川ソフィア文庫より)

(注)八重(やへ)咲く:次々と色どりを変えて咲くように

(注)八(や)つ代(よ):幾久しく。「八重」を承けて「八つ代」といったもの。

(注)います【坐す・在す】[一]自動詞:①いらっしゃる。おいでになる。▽「あり」の尊敬語。②おでかけになる。おいでになる。▽「行く」「来(く)」の尊敬語。(学研)

 

 左注は、「右一首左大臣寄味狭藍花詠也」≪右の一首は、左大臣、味狭藍(あじさゐ)の花に寄せて詠(よ)む。>である。

 

  題詞は、「同月十一日左大臣橘卿宴右大辨丹比國人真人之宅歌三首」<同じき月の十一日に、左大臣橘卿(たちばなのまへつきみ)、右大弁(うだいべん)丹比國人真人(たぢひのくにひとのまひと)が宅(たく)にして宴(うたげ)する歌三首>である。

 この題詞の歌三首については、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その550)」で紹介している。万葉集では、「あじさい」を詠んだ歌は意外と少なく、もう一首は、大伴家持

七七三歌である。七七三歌は、大伴家持が久邇の京より坂上大嬢に贈った五首のうちの一首である。この五首についても同ブログで紹介している。

 ➡ こちら550

 

 

 

―その713―

●歌は、「見れど飽かぬ人国山の木の葉をし我が心からなつかしみ思ふ」である。

 

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紀伊風土記の丘万葉植物園万葉歌碑(柿本人麻呂歌集)

●歌碑(プレート)は、和歌山市岩橋 紀伊風土記の丘万葉植物園(17)にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆雖見不飽 人國山 木葉 己心 名著念

              (柿本人麻呂歌集 巻七 一三〇五)

 

≪書き下し≫見れど飽(あ)かぬ人国山(ひとくにやま)の木の葉をし我(わ)が心からなつかしみ思ふ

 

(訳)いくら見ても見飽きることのない人国山の木の葉よ、この木の葉が、私としたことが自身の心の底から懐かしく思われてならない。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)人国山:他国の山。和歌山県の山の名とする説も。

(注)木の葉:人妻あるいは他の部落の女の譬え

(注)をし 形容詞:①【惜し】残念だ。心残りだ。手放せない。惜しい。(二)【愛し】いとしい。かわいい。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

 「をし」でも、歌の意味合いとしては不都合はないが、略体歌では、「助辞」が省略されることから考えると、目的+協調で「を」「し」だろうと思う。「をぞ」とする本もあり、「を+し」で目的を強調ととったほうが良さそうである。

 

部立は「譬喩歌」であり、一二九六から一三一〇歌までの、左注は「右の十五首は、柿本朝臣人麻呂が歌集の出づ」とある。一三〇五歌の題詞は「木に寄す」である。

 

 あちこちのある万葉植物園の歌碑(プレート)の歌は、植物がテーマであるので、重複することが多いが、地元ゆかりの歌が採用されていると、初めての歌に出あうことができ新たな感動をもらえるのである。

 

 

―その714―

●歌は、「ありつつも君をば待たむうち靡く我が黒髪に霜の置くまでに」である。

 

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紀伊風土記の丘万葉植物園万葉歌碑(磐姫皇后)

●歌碑(プレート)は、和歌山市岩橋 紀伊風土記の丘万葉植物園(18)にある。

このプレートは、これまでのものと異なり、植物が主体で、その写真まで掲載されている。もちろん植物は歌に関連したものであり、植物や歌についての説明が丁寧になされている。

 

●歌をみていこう。

 

◆在管裳 君乎者将待 打靡 吾黒髪尓 霜乃置萬代日

              (磐姫皇后 巻二 八七)

 

≪書き下し≫ありつつも君をば待たむうち靡(なび)く我が黒髪(くろかみ)に霜の置くまでに

 

(訳)やはりこのままいつまでもあの方をお待ちすることにしよう。長々と靡くこの黒髪が白髪に変わるまでも。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

(注)在りつつも(読み)アリツツモ[連語]:いつも変わらず。このままでずっと。(コトバンク デジタル大辞泉

(注)霜を置く(読み)しもをおく:白髪になる。霜をいただく。(コトバンク 三省堂大辞林 第三版)

 

「御綱葉(みつなかしは)」については、八五歌の類歌として収録されている九〇歌の左注に「・・・皇后紀伊の国(きのくに)に遊行(いでま)して熊野(くまの)の岬(みさき)に到りてその処の御綱葉(みつなかしは)を取りて還(まゐかへ)る。・・・」とある。

 

九〇歌ならびに題詞、左注は、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(番外200513‐1)」で紹介している。 ➡ こちら 番外200513‐1

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 一」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫)

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫)

★「万葉集 四」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫)

★「植物で見る万葉の世界」 國學院大學 萬葉の花の会 著 (同会 事務局)

★「コトバンク 三省堂大辞林 第三版」

★「コトバンク デジタル大辞泉